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ていうか、炭酸考えた人変態だろ

登場人物
みりあ クール
飛鳥 ギャル
香澄 天然

「結局のところ、炭酸飲料考えた奴が一番変態だよね」

教室には緩やかな風が吹き抜け、亜麻色のカーテンが揺られている。それでもやや暑めのお昼過ぎ、窓から一番近い列に座る私達3人は、机を向かい合わせて絶賛放課後満喫中。

私の対面に座る飛鳥は、偏差値の高い顔面を透明色の下敷きで仰ぎながら話を切り出した。

「……なんで?」

本来なら食いつきたくもない話題だが、炭酸と変態の因果関係がどうしても気になるので、渋々聞き返しておいた。渋々ね。

飛鳥はふふんと笑うと、嬉々として解答を説きだした。

「だってさ、あんな痛い飲み物作るなんて絶対ドMだよ!なんならドドドM!ドレミM!」

そう来たか。確かにあのバチバチ飲料は、確実に喉を痛める液体だ。痛みが伴うことを理解していながら、今現在も老若男女に犬猫椿が愛飲し続けている。というのも、炭酸飲料には刹那的な快楽が存在するからだ。

つまり、炭酸飲料は乾いた喉を快楽で満たすやばい液体ということだね。

けどね、飛鳥……君は一つ選択を見落としている。

「あー……まぁ、飲ませる側だったらドSの可能性もあるけどね。ていうか、ドMのドって音階だったんだ」

ただ、そうなってくると炭酸飲料開発者の変態度数は爆上がりする。

発言の後、向かい合わせた机の側面に椅子を運んできて座っている香澄が、手を挙げて何かを言いたげにしているのが目に入った。ただ、彼女は先ほどコンビニで買ってきた焼きそばパンを頬張っているため、きちんとした言語を発するまでには時間が掛かりそうだ。

ちなみに、現在香澄がいる机の足が邪魔に感じる位置には、じゃんけんで負けた者が座ることになっている。自慢ではないが、私はその座りづらい場所を2週間陣取ったことがある。その間の私は、敗北の女神に溺愛されていたと言ってもいい。

香澄は雑にパンを飲み込むと、分かりやすいキメ顔を作った。なんとなくだけど、この天然少女はこれからとんでもないことを口走るような気がした。

「その発想ができるってことは、みりあちゃんはSだね!」

どうやら、わたしの勘はかなりの精度を持っているらしい。
そして、この天然女はパンを食べ終えたかと思うと、私のことをド変態宣言した。

危うく赤面を晒しそうになったが、私は冷静沈着氷河級クールな女なのでなんとか耐えることができた。

しかし、これは困ったな。次の発言次第で私に対するイメージがクール少女からウルトラギャラクシーサドスティック女王へと変わりかねない。

どう反論しようか、そう考えた時だった。

「ちょちょちょっ!それじゃまるでウチがドMみたいじゃん!?」

私が否定の文言を長考していうるうちに、飛鳥が身を乗り出して反応した。なるほど。香澄の言い分だと、飛鳥はドM思考者になるのか。

当の発言者へ視線を移すと、彼女は口を抑えて笑い倒していた。涙を流してまで笑い続けていることから、どうやらツボに入ってしまったらしい。ゲラだな。

笑い終えた香澄は、息を整え涙を拭いながら私達に語りかける。

「でも私の予想とちょっと違ったな」

どうやら、飛鳥が口にした答えと飛鳥の予測した答えは異なっているらしい。

「みりあのことドSじゃなくて、ドMだと思ってた感じ?」

「いや!違うから!炭酸を作った人がどうして変態なのかに対してでしょ!」

なんてことを言い出すんだ、このギャル純度100%の女は。その話題ぶり返し行為は、君にデメリットしかないはずなんだが。それともあれかな、私と変態レッテル心中をご所望なのかな。

「怒りすぎ〜。もしかして、図星かなぁ?」

「は?ドSだが?ドレミファソラシドドSだが?」

なにそれ、と飛鳥は吹き出してしまった。私もわからん。
一連のやりとりを見た香澄は、可愛らしい声で可愛らしい笑顔で笑っていた。天使かな。

「てっきり、飲んだ人のゲップが見られるから変態なのかと思っちゃったよ」

微笑みながら言うことでは無いランキング1位の発言が飛び出してきた。
耳を疑う余地も残っていないほど、彼女はそれをはっきりと口にしたのだ。

「ちょっと違うどころじゃないよそれ!かなりレベル高いから!」

飛鳥が精度の高いツッコミを繰り出す。ゲップ愛好家なんて変態としての格が違いすぎる。ドSドMなんて足元にも及ばない、8オクターブ上のド変態じゃないか。

そして、私は宣言させてもらうとしようか。

「その発想ができるってことは、香澄はとんでもない性癖の持ち主になっちゃうけど」

私からのささやかなお返しだ、香澄。

「あ!」

呆気に取られ口を軽く開けている少女がここに1人。

私達3人は互いの顔を合わせると、教室に響き渡るほど笑い合った。

ありきたりな日常での出来事。こんな最高の放課後も、私達はきっと有象無象の記憶の中へとフォルダ分けしてしまうんだろうな。

一通り笑い切ると飛鳥は何かを発見したようで、質問を口にした。

「そういえば、香澄。コンビニで何買ってきたの?」

そう言った飛鳥の視線の先は、香澄の足元を指していた。そこには数枚のティッシュが敷かれており、上には可愛らしいショートケーキを模した柄のエコバッグが置かれている。

よく見ると、そのバッグの中にはまだいくつか商品が入っていた。

「あ!忘れてたーー!せっかく2人の分も買ったのになぁ、ぬるくなっちゃってるかも」

口に出しながら、香澄は椅子に座ったまま腰を折り曲げ、バッグの中から商品を取り出す。

彼女は、はにかみながら手にした物を机の上に置く。

3人分の炭酸飲料入りペットボトルだった。

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