【復刻記事】オースはなぜ勝てなかったのか

これは2017年8月8日に執筆した記事をNoteに移転させ、2019年12月現在の趨勢に関して6.を加筆したものである。


1.メタゲーム概観

ヴィンテージは1年以上にわたってWorkshopとメンターの二大勢力に支配されてきた。そこに噴出・ギタクシア制限によるメンター抑制が加わり、メンターはデッキパワーの絶対値を落としつつもWorkshopとの相性を改善した。そこで逆説が第三勢力として台頭し、一時はメタの三つ巴が成立するかとも思われたが、結果としてはWorkshopが他を引き離し、環境最強デッキにして唯一のTier1の座を確立した。

現在、mtggoldfishによればWorkshopが環境のちょうど1/3、33%を占める。その直下にあるのがジェスカイメンターと逆説で、共に13%前後だ(mtggoldfishのデッキカテゴライズはガバガバで知られ、厳密な推計には到底耐えないのだが、メタゲームの大まかな特徴を知るだけならこれで十分だろう)。

2.オースという問題提起

一時期、環境の攻略法としてオースに注目する声があった。クリーチャーを勝利手段とするWorkshopやメンターに対し、ドルイドの誓いを叩きつけようというのがその趣旨である。それだけではない。ヴィンテージ環境を正視するプレイヤー達は、クリーチャーデッキの強力さにはドルイドの誓いのみに頼ってはいられないことを見抜き、さらなる措置として、従来ヴィンテージでは見られなかった罰する火/燃え柳の木立ちエンジンをも搭載したPunishing Oathを組み上げた。

しかしながら、このような努力にかかわらず、残念ながらこの試みは失敗に帰した。オースの支配率は下降の一途をたどり、青系デッキの中でも逆説どころかBUG(墓荒らしと呼ばれてきたカラーリングだが、最近Team Leovoldと呼ばれることが多い)や新興勢力のバラル・ギフトにも後塵を拝する有様である。

そしてWorkshop、メンター双方に勝ちきれないばかりか、大量ドロー可能なノンクリーチャーデッキである逆説がメタゲーム上の大きな位置を占めるようになった現在、オースを選ぶメタゲーム的理由はなくなった。本稿では、このようなオースの挫折とその理由を検証したい。

結論としては、オースは2つの理由
a.コンセプト自体の弱さ - テンポの不利
b.メタゲーム上の弱さ - サイドボードの不利

からWorkshopとメンターに勝ちきれなかったものと考えている。

3.コンセプト自体の弱さ

前提として、卡槽が充実していくにつれ2枚組のコンボは淘汰される運命にある。

いま、単体で10点の卡AとBがあり、それらが組み合わされば100点になるとする。卡戯で最強クラスの卡でも20点くらいの強さしかもたない時代なら、A+Bコンボは実に強い。しかし、インフレしていって1枚で40点の強さを備える卡が登場したとなればどうか。それが2枚あれば80点の強さであり、先のコンボに迫る勢いだ。これを最も実感できるのはWorkshopだろう。1ターン目に磁石のゴーレムを出し、2ターン目に変形者でそれをコピーすることは、特にコンボとはいえない。2枚の卡はそれぞれの役割を果たしているだけである。しかし、この動きが妨害なく繋がれば、ほとんど勝勢である。このようにして、卡槽が充実していくにつれ、A+Bのコンボは例え成立したとしても、グッドスタッフを圧倒的に引き離すほどの見返りとはいかなくなる。その反面、AかBを単独で引いた際の弱さ、足手まといぶりが一層際立ってしまう。

修繕→BSCやドルイドの誓い→グリセルブランドのコンボも例外ではない。BSC等の巨大クリーチャーの決定力に衰えはないが、時代の進歩(そして2008年の渦まく知識制限)により、こいつらが手札に来てしまった際のドローロスや、コンボ不成立時の負債(生け贄にしてしまったアーティファクト、オースを引けないうちに果樹園から出てきたトークン)がより重くのしかかるようになった。こうして、Tinker戦略はマジック全体の成長に反比例するかたちでの緩やかな衰退を余儀なくされた。

そう、これはドルイドの誓いが呼び出すクリーチャーが弱いせいではない。夜のスピリットから出発してアクローマ、大祖始、イオナ、エムラクール...と成長していったOath targetは、獄庫から目覚めたグリセルブランドでその頂点を極めた。巨体に備わった絆魂で劣勢を優勢に、圧倒的なドロー能力で優勢を勝勢に変える素晴らしい制圧力を持つ。しかし、このグリセルブランドでさえ、オースを貼って1ターン待つ降臨の儀式を経由したのでは遅いようだ。

では、これほど完璧なクリーチャーを擁するオースが文字通り遅れをとるようになったのはなぜか、2アーキタイプとの相性をミクロな視点で見てみよう。

Workshop

まず、Workshopがこの2年間で質的に変化したことを述べる。そもそも、このアーキタイプは、Mishra’s Workshopによる莫大な生産力を前提に、Sphere(抵抗の宝球、アメジストのとげ、三なる宝球)によるロックと選抜されたアーティファクト・クリーチャーによるアグロの組み合わせである。そこで、ロックとアグロの二項対立を軸として、この2年間Workshopに起こったトピックを整理してみよう。

①2015/10/02 虚空の杯 制限
②2016/04/08 磁石のゴーレム 制限
③2016/09/30 カラデシュ:鋳造所の検査官、高速警備車 追加
④2017/01/20 霊気紛争:歩行バリスタ 追加

①は明らかにロックを弱める。
②は、ロック・アグロを併せ持つ最高のクリーチャーに対する制限であり、Workshopの強さそのものに大幅な規制を加えたものだ。
③④の新卡はロックには寄与しないが、アグロを大きく高める。

①③④がロックよりアグロに向けたトピックだといえる。この結果、Workshopは、2年間の大きな流れとして「ロックを主として、従たるクリーチャーで勝つ」プリズンデッキから「クリーチャーの展開を主とし、それを妨害から守るために従たるロックを仕掛ける」ストンピィデッキに脱皮したのである。からみつく鉄線が先駆のゴーレム取って代わられたのは、その象徴であろう。Workshopに負ける場合の実感としても、以前は全く身動きが取れずに殴りきられたパターンが多かったのに対して、最近は、鋳造所の検査官を起点とするクリーチャーの横並びにSphereが加えられ、呪文を唱えることはできるが、それで敵軍を倒し切る前にこちらのライフが突きてしまうパターンが多いと感じている。

以上のような意見を持っていたところ、大鍋兄貴からも同様の指摘があり、膝を打ったところである。

さて本論に戻ると、Workshopのクリーチャーの中でも電結の荒廃者がオースを大きく制している。こいつを中心とした軽量クリーチャーの展開が増え、マナ拘束が緩やかになるのはむしろオースにとって好都合ではないかと思われるところだが、実際はそう簡単ではない。オースから1ターン後にグリセルブランドを特殊召喚してパス、次ターンに(必要ならオースを再誘発させ)攻撃してライフを安全圏に引き上げるというオース側の視点からすれば、電結の荒廃者による変幻自在のサクリファイス戦略は非常に厄介であり、これでグリセルブランドの絆魂をすり抜けてライフを削り切られてしまうケースもある。それどころか、自軍クリーチャーを全てミシュラの工廠に食わせてオースの誘発自体を阻みつつ、安全圏から強打を浴びせる狡猾なプレイさえ可能である。

メンター

2マナのドルイドの誓いは3マナの導師より軽い。しかもメンターの持つカウンターは、テンポを重視した狼狽の嵐や精神的つまづきが主であり、ドルイドの誓いをカウンターできるのは意志の力のみに頼っていることが多く、有利である。と言うと本論とはまるで逆とことになりそうだが、実際1本目ではメンターに相性が良い。しかし、これが2本目以降になると全く変わってくる。グリセルブランドでさえ遅いのはなぜかという問いに対しては、次項までいったん保留としよう。

4.メタゲーム上の弱さ

オースはサイドボード上非常に不利であり、デッキパワーの高さに比してメタゲームに食い込めない主因となっている。例えば墓掘りの檻だ。これは主としてドレッジ対策卡であり、オースはいわば巻き添えを食った形である。mtggoldfishによれば、檻は70%のデッキに3~4枚入っている(支配率ヴィンテージ1位)ので、サイド後のオースは矢のように降り注ぐこいつらを何とかしなくてはならない。このように、Workshopやドレッジの対策が結果としてオース対策にもなるケースが非常に多く、オースはメタゲーム支配率に比して過重な対策を受けている状況だ。

この問題についても、アーキタイプごとにさらに詳しく見ていく。

Workshop

檻が100%フル投入される。オースに的を絞った対策としてはカラカスがある。

メンター

禁止の色、白はサイドボードで力を発揮する。やはり檻が非常にポピュラーであるが、封じ込める僧侶や名誉の神盾といったクロックと妨害を兼ねるクリーチャーも脅威である。また断片化や解呪はWorkshopとの兼任である。平均すれば、おそらく6~7枚の対策が搭載されているだろう。

そこで、先の留保された問への回答はこうなる。「檻をはじめ、ドルイドの誓いより速い妨害を設置することができ、(ドルイドの誓いそのものには通用しなかった)カウンターを、檻らに対する除去に向けることができる。その間、ドルイドの誓い誘発を許さずにクロックを展開できる。」

5.オースのこれから

直近2週間のVintage Challengeでは、トップ32までで1つのオースをも見出すことができなかった。現状オースが厳しい立場に立たされているのは事実である。

テンポを改善する方法は色々ある。既に触れた罰する火エンジンのほか、攻撃を1ターン早めてくれるドラゴンの息も、特にエムラクール型のオースでは主流である。これらは非常に有力な戦略ではあるが、コンボを前提した構築であることには変わりなく、右に述べたコンボ漸減理論の域を出ないものと考える。

トップ2デッキに対する不利とはあくまで相対的なものであり、今後の制限次第ではその差が縮まって力を取り戻すこともあるだろう。例えば、抵抗の宝球あたりが制限されれば、ライフを削られる前にドルイドの誓いを出せる確率が上がるだろうし、定業が制限されて血清の幻視あたりに交換されれば、ドロー連鎖による導師の爆発力がやや抑えられ、ドルイドの誓い誘発が間に合うケースも増えることだろう。

6.オースの2019年

この記事を書いて2年以上が経過した。その間、ヴィンテージは激動に晒された。オースの動向について、冬宮氏による記事「Oathにおける王冠泥棒オーコについて」を基に考えてみよう。

まず執筆直後の2017年9月1日の制限改訂により、5.で触れたWorkshop・メンターの弱体化が実現した。特にアメジストのとげ/Thorn of Amethyst制限は、オースが非常に苦手とする白単エルドラージをメタ外に追い落とすこととなった。この辺りの経緯はyuz氏による記事「白エルドラージの歴史」に詳しい。

また、4.で言及したサイドボードの不利も緩和されてきた。つまり、墓掘りの檻/Grafdigger’s Cageの減少である。その仮想敵筆頭であるドレッジは、虚ろな者/Hollow Oneの獲得を機に、ここ2年ほどで檻をすり抜ける構築に脱皮した。さらにモダンホライゾンにて活性の力/Force of Vigorを獲得、置物系墓地対策そのものに強いNOを突きつけた。このような時勢の変化を悟った非ドレッジ側も、墓掘りの檻を廃して貪欲な罠/Ravenous Trap等のより単純な追放型墓地対策に戻してきた。こうして、ドレッジの巻き添えで対策されまくる悲劇は少なくなった。

このように、オースを取り巻く環境は改善されてきた。では、オースそのものの変化は?大前提として、オースはエキスパンション追加による更新が期待しづらいデッキである。なぜなら、構造上小型クリーチャーを入れられず、右記事の指摘にもあるとおり、禁忌の果樹園/Forbidden Orchardがトークンを出してしまう関係上PWとの相性もあまり良くない。

そのため、《ドルイドの誓い》とはまた別の勝ち手段をデッキに投入することとなります。
~中略~
即ち、プレインズウォーカーに頼ることとなります。
しかし、そのプレインズウォーカーも適当なものではなく、『《封じ込める僧侶》に対抗できて、単体で使用するに値するスペックで、重くても4マナで、着地して数ターン後に勝ちが保証されるものでなくてはならない』といった条件をクリアしなければ勝ち手段とはなり得ません。

いきおい、更新されやすいのはデッキの主役にあたる大型クリーチャーか、脇を固めるドロー・カウンターといった部分になる。

大型クリーチャーについては、以前テーロス辺りまでの軌跡をまとめている。これが示すとおり、アラーラ(2008)からイニストラード(2012)までの5年間、魅力的な巨大クリーチャーが立て続けに登場し、オースは段違いに強化された。そして、これ以降大型クリーチャーの更新は長らく途絶え、オースはグリセルブランド+既存のクリーチャーを再発見することでメタに適応していったが、デッキパワーの相対的低下は隠しきれなかった。

そんな折、2018年10月発売:ラヴニカのギルドにて、パルン、ニヴ=ミゼット/Niv-Mizzet, Parunが登場した。ニヴ様はグリセルブランドとはまた違った角度から強力なアドバンテージ力を持ち、特に盤面干渉の点ではグリセルブランドを凌ぐ強豪である。速やかにオースに採用されることとなった。

そして2019年5月発売:灯争大戦で数多くのPWが登場し、ヴィンテージは激変することとなるが、オースを強化する新卡は特に現れなかった。覆いを割く者、ナーセット/Narset, Parter of Veilsこそ収録されたものの、青なら入れて当然の強卡なので特筆性はない。このセットによって、オースは環境の進化に取り残されたというのが正直なところであろう。

同年7月:基本セット2020収録の夏の帳/Summer of Veilsは、オースをねじ込むのにも使え、妨害にも使えと攻防一体の卡として歓迎されたが、使い所を選ぶ色対策である以上採用枚数は抑え気味であった。

しかし、同年10月:エルドレインの王権が王冠泥棒、オーコ/Oko, Thief of Crownsを収録したことで転機が訪れる。詳しい解説は右記事に譲るが、異常に高い忠誠度、敵味方どちらに使っても有効な[+1]を併せ持ったオーコは、オースが待ち望んでいた「追加の勝ち手段になれるPW」に他ならなかった。

これにより、オースは一定の復権を果たした。オースは影響力の高い巨大クリーチャーを踏み倒し召喚する決定力と、メタゲームに応じてその姿を変える柔軟性を併せ持ったデッキであり、今後ともヴィンテージの続く限りその姿を見ることができるだろう。

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