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和歌山の小さなゲストハウスが灯した希望溢れる未来の火


「旅の宿」が実際に現地で泊まること、リアルでそこにいる人々と接することだとしたら、「オンライン宿泊」はそれを根底から覆すだろう。

Web会議システムのZoomを使った新しい宿泊スタイルの「オンライン宿泊」は、革新的なサービスだ。中でも、那智勝浦にあるゲストハウス「Why Kumano」は世界で初めてこのサービスに取り組み、開始3か月ですでに70回、400名を超える客が訪れている。今回、私たちは「新聞会のオンライン新歓」として参加した。

ゲストハウスとは 

ゲストハウスは元来、一般のホテルや旅館とは違って、宿泊客同士やスタッフとの交流の場があるのが特徴だ。様々な土地から来た旅人たちが集まり会話を交わす。価値観や歩んできた人生の違いを肌で感じ、視野が広がるということで、人とのつながりの薄れてきた現代にマッチし、料金が手ごろなこともあって人気が出ている。

今回の「オンライン宿泊」では時間になるとリンク先に入り、チェックイン映像で施設を一通り見た後に、自己紹介が始まる。今回は特別に貸し切りなので新聞会メンバーとオーナーの後呂孝哉(Goro)さん(31)だけで話が進んでいく。

「視覚」に訴える

その後、WhyKumanoのある那智勝浦町の紹介やイベントの紹介など様々な企画が展開されたが、共通して印象に残ったのは、「視覚」に訴えるということである。例えば、地図を使って熊野と今私たちがいるところを対比させたり、写真共有サービスを使って客同士の最近の出来事や旅の思い出を共有する。すると私の実体はここにあるにもかかわらず、ふと熊野の自然の中に身を置いているような感覚に襲われた。

「オンライン宿泊は未来の約束」


Goroさんは、「オンライン宿泊は未来の約束だ」と語る。本当は「オフライン」で来てほしい。でも、今は行けない。そこで何ができるか考えた末に、この機会に熊野や那智勝浦、そしてゲストハウスのファンを作ろうと決めた。それらの魅力をオンラインで伝えて普段の日常が戻ったら、ここに実際に訪れてもらう。その時には「やっと会えましたね」と、共に乾杯したいと言う。

そんなGoroさんの地元愛は、画面越しでも十分過ぎるくらい伝わってきた。熊野を紹介する中で、「まだまだあります」というフレーズを度々耳にした。これだけ愛されていて、まだまだたくさんの魅力が詰まっている土地に、行ってみたくならないはずがない。

チェックアウトの映像に投影されたのは


「オンライン宿泊」自体は20時から22時半までだが、翌朝のチェックアウト前には、熊野の観光映像が流される。出発の朝、一人の旅人が静寂から目を覚ます。この旅人はいつかの私たちでもある。旅人は支度を整えて、Goroさんの入れたコーヒーを飲みながら、これまでの旅路を振り返る。美しい海原、厳かな神社の境内、忘れられないマグロの味、楽しい交流、そして、熊野の人々の日常と笑顔。旅人はこの多くの素晴らしい思い出とともに、新たな場所へと歩んでゆくのだろう。

ハンデをチャンスに 前を向く人々

観光業というのは今まで、実際に客に現地まで来てもらわないとサービスができない、魅力を知ってもらいにくいという側面を持っていた。そのため、観光客の中にはアクセスの悪さをネックに感じる人たちもいた。だが、「オンライン宿泊」はむしろそういった場所の方が「今まで行ってみたかったけど、難しかった」という層をターゲットとして集めやすい。加えて、オンライン宿泊では別のターゲットも期待できる。それは、今まで旅行に行きたかった、もしくはゲストハウスに泊まりたかったが、様々なハンデがあって果たせなかった人たちだ。そんな人たちもオンラインであれば参加できる。そんな存在はこれまで可視化されてこなかった。今回、実際にやってみたからこそわかったことだろう。

未曽有の混乱の中、私たちはこれからどうしていけばいいのかわからずもがき苦しんでいる。そんな中でも希望の灯は消えない。今できることを必死に考え、なんとか元気を取り戻そうと頑張る人々がいる。その熱量に実際に触れ、私は何かを得たような気がした。


記者 Y. K


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