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2017年2月 仙人掌 / VOICE

 タイトルにかけているわけではないが、この人の何がヒップホップかって、声がヒップホップなのだ。カッコいいラップは声がかっこよくあってほしい、という期待を遥かに超えてくる。その声の渋さ、文字通りスピットするようなフロウ、そこから放たれるリリックの妙。その全てがヒップホップとしてかっこいい。

 本作の前に仙人掌のソロ作としては、『Be In One’s Element』というアルバム、MIX CD『LIVE ON REFUGEE』があるが、そのいずれも傑作と言われ、一般流通のアルバムがずっと待たれ続けていたラッパーである。

 そして満を持してリリースされた本作『VOICE』はその待ちわびたヘッズ達を余裕で唸らせ、頷かせ、頭を縦に振らせている。この作品からは、これまで聴かせてきたキレのあるラップと、渋い声と、天才的なリリックが何倍もレベルアップして鳴っていた。リリックは更に思慮深く、その声も以前よりは尖っていないが、そこには尖るだけでない説得力と力強さとしなやかさが加わっていて驚いた。また、彼のすごさはリリックがいかにもヒップホップという言葉のチョイスでは無い、という部分で、あの宇多田ヒカルもそうだが、いわゆる‘歌詞’の中に急に日常的な言葉を差し込んで聴く側をハッとさせるのである。そしてKID FRESINOも自身の曲の中で言っていたが『仙人(掌)のように身に寄り添うだけだ』とあるようにそのリリックは不思議とリスナーの身に寄り添う。

 そんな、数々のパンチラインを放ってきた彼は本作でも多くのパンチラインを吐き出しているが、1つだけ挙げて締めようと思う。『拾っては抜けてく埃みたく 叩かれても残る誇り磨く』。ラッパー然とした佇まいからこういう言葉が発せられるから、この人を好きになってしまうのだ。

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