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Roaming around

誰もいない景色を歩いた。
思い出の中、いたはずの登場人物たちは、どこかへ消えさって。
影も気配もない風景。
わたしだけ、一人きり、歩き回る。

誰かのいる写真を避けた。
他人を含めた思い出は、感情が付随して、容量が重くなる。
その人を嫌いになったとき、背景まで嫌いになる。
だから、人間はいらない。
遠景だけの記憶でいい。

都合のいいもので満たされた。
感情も邂逅も過去も瑕疵も。
受け容れる余地がなくて、瀝青で塗り潰した。
素描人形のような顔のない恋人が理想。
操る糸が見えれば、なおのこと。

灰色の冷たい壁に包まれた。
無人は、この上なく、心地いい。
どれだけ醜くあろうと。
妄言も暴挙も冒涜も亡霊も。
ここでは、好きなように、好きなだけ。

盲目になれたらいい。
見えなければ、見られることもない。

透明になれたらいい。
見られなければ、見せることもない。

空白になれたらいい。
見せられなければ、見ることもない。

誰もいない部屋で目覚める。
巣穴の外、雑踏の一部になって、さみしさの温度は変わらない。
昨日までと等しい速さ。
わたしだけ、同じところ、回り歩く。

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