マガジンのカバー画像

おーばる 2024

5
気になった方は、まずはこちらのフォローからどうぞ。投稿順に全て納めています。
運営しているクリエイター

#短編小説

うなじに接吻

真っ暗な寝室にそっと入り、音がしないようにドアを閉めた。 暗い中を壁伝いに手探りでゆっくり進み自分のベッドに辿り着くと、そっと掛け布団を持ち上げその隙間に滑り込む。 横たわり、ほぅ、と息を深く吐き出した時、くっ付けている隣のベッドから低い小さな声が聞こえた。 「……今何時」 深夜2時前だったが、あまり遅いと文句を言うのでサバを読む。 「1時過ぎ」 「夜更かししてないで早く寝なよ」 「うん」 寝ようとしたらまた声を掛けられた。 「寝入りばなに部屋に入られると目が覚め

アンティーク 神は細部に宿る

「すごい眺めだな」 高層階のマンションのリビングから見える景色は、遮るものもなく、外国らしい色彩と形状の建物を見下ろせた。 ハリケーンほどではないが強めの暴風雨のせいで昼間なのに薄暗く、時折強い雨風が窓ガラスを叩く音が聞こえた。 それもまた非日常感があって、異国にいる気分を盛り上げていた。 招かれたばかりだというのに、つい友人を放って窓に張り付くように立って外を眺めていた。 「いい加減こっちに来いよ」 亮介が人に命令するような物言いをするのは珍しかった。 振り返ると、右