牌はほんとに減ってるか? 朝ドラ「虎に翼」感想文(第22週)

パイの奪い合い
規模の限られた市場の中で他社と競合して「(売上やシェアを)取るか取られるか」の状態であることを指す語。「パイ」は元々はお菓子のパイを指し、転じてパイグラフの意、さらに分割される(上限の限られている)領域を意味する語。

実用日本語表現辞典

「生き残らなければ同じ場所に立てない」
「お前自身が邪魔者になる」
「あなたの居場所はここにちゃんとある」
「お父さんも百合さんもお兄ちゃんもみーんなふたりをみてる」
「役立たずと三行半を叩きつけられたの」
社会の話を縦糸に、家庭の話を横糸に。第22週は、居場所についての物語だった。

さて“パイの奪い合い”という慣用句があるけれど、私はそのパイをずっと「牌」だと思っていた。しらべたら、どうやらお菓子のパイらしい。なるほど、奪い合うにはそっちのほうが似つかわしい気もするけれど、長年の習慣とは恐ろしいもので、私の脳では相変わらず「牌」に変換されてしまう。ジャラジャラジャラジャラ。第22週。麻雀牌がぶつかり合う小気味いい音は、牌を奪い合う真剣な顔と相まって、だんだん不穏な音に変わってくる。

平等ってのはさ、俺たちみたいなやつにとって、確かにソンな所もたくさんある。この先、どんな仕事をしてどんな人生を送ろうと弱そうな相手に怒りを向けるのは何にも得がない。お前自身が平等な社会を拒む邪魔者になる。やだろ?


小橋のセリフは主に前段が話題になったけれど、私には後半の「邪魔者」という言葉の持つ違和感がとても印象的だった。小橋は「平等であること」の是非について、善悪ではなく損得という軸を持ってくる。

損な事も沢山あるけどそもそもこの新ルールに乗らなければ社会に居場所を失う、それはより損だと言う小橋。そこには「居場所は常に有限であり、パイは奪い合うもので、プレイヤーが増えれば増えるほど損をする」という思考の前提がみえてくる。

ジャラジャラ、ジャラジャラ。
誰かに譲れば誰かが落ちる 
誰かが勝てば誰かが負ける

社会での居場所。
ねえ小橋、教えてくれないか。その居場所、ほんとに奪い合うしかないんだろうか。土地ならば溝を埋め立てれば増える訳なんだけれど、社会の居場所は増えないのかな。「男は絶対」「女は選んで」その溝を埋めて行き来ができるようになったら、少しはお互い得じゃない?

ジャラジャラ、ジャラジャラ。
奪い合う牌。勝って負けて、点棒が飛び交う。そういえば小橋はマージャン得意だろうか。トラちゃんと勝負したらどっちが勝つんだろう。案外いい勝負になる気もする。


「あきらめていました。寅子さんと夫婦になれたから、子ども達とも…もっと家族らしくなれるんじゃないかと。自分に寅子さんのように溝を埋める力なんてないのに。」

星。惑星。衛星。恒星。星にも色々あるけれど、航一さんはどれだろう。
衛星の月は地球の周りを、惑星の地球は太陽の周りをまわり、空に大きく軌道を描く。

航一さんの軌道は、私たちがよく見る社会の風景を思い出させる。そこにある問題に気づきながら、見てみぬふりをし蓋をして、先送りにしたままに、ひたすら同じ軌道を周回し続ける。

軌道をなぞる惑星が航一さんなら、勢いよくぶつかった寅子はさしずめ彗星だろうか。ほんの少しだけ軌道をずらし、航一星に魔法をかけた。「ちちんぷいぷい」それはまるで童話みたいな  … 「こどもあつかい」されてきたのは誰で、「おとなあつかい」されてきたのは誰なのか。ちちんぷいぷい、ちちんぷいぷい、元に戻れ。

「それは、僕がやるべきこと」
魔法をかけてもらった航一がやったのは、子供たちにかけられた古い魔法を解いてあげることだった。ちちんぷいぷい、ともかず、のどか。子供にお戻り。もうお前達が「おとなの代わり」をしなくていい。お父さんを甘えさせてあげる役目は、もう終えていい。あなたが甘えて、いい。


「まずは、星家の問題を解決してください。…しばらく、解散!」
魔法使い寅ちゃんの、まったく正しい解散宣言を観ながらそりゃそーだと呟いてしまう私。外からの魔法ができるのは、それくらい。軌道をほんの少し変えることだけ。

あとは自分たちで解決しなければ。

考えることをやめないぞ、とそれだけ誓いながら、第23週を迎える。

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