公開360度評価 朝ドラ「虎に翼」感想文(第15週)

360度評価

上司だけでなく同僚や部下、他部署など複数の関係者から評価を行う手法のことです。周囲のあらゆる方向からの評価であるため多面評価とも呼ばれます。360度評価の実施目的は、一般的に人材育成と評価の2つに分かれます。人材育成を目的とする場合には、評価結果を本人にフィードバックし、自己変革を期待することが多いです。

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直言さんと穂高先生。旧いルール達を送り、新しいルールのターンがやってきた。でもこの物語の場合、「新しい価値観」を武器に寅子がバッタバッタと「旧い価値観」をなぎ倒す…なんて展開にならない。そこは絶対の信頼感がある。

なぜなら、地続きだから。
旧いルールも新しいルールも、使うのが同じ人間である以上、一気に変わることはないから。星朋彦先生の本の序文にあったように、これが国民になじむまでには相当の工夫と努力と、日時を要するものだから。

第15週は、そんな新しいルールの使い手として評価を受けるターンだった。寅ちゃん360度評価。ホント、きつかったわあ…

外観は整ったけどさ

新憲法のもと、すべて国民は個人として尊重されることになったし、社会的身分に寄らず法の下に平等となった。アメリカ仕立ての素敵なワンピースを着て、かつてはデートの日ですらなおざりだった口紅をバッチリ決め、アメリカ帰りの知識を存分に披露する新しい女性。外観はパーフェクトだ。新しい憲法のように。でも、その中身はどーなんだ?

自らの不貞行為で離婚を申し立てされた瞳さん。
寂しい、というセリフに含められた様々な事情を想像する。
ネットが発達した今、私たちは容易に自分の置かれた状況を検索し、同胞を探し、ついている名前を探すことができるようになった。ジェンダー。フェミニズム。セクシュアリティ。でもそんな仕組みがなかったころ、家でひとり夫の帰りを待つ妻の気持ちに名がつけられる場などなかっただろう。

お金は入れている。暴力もない。外観は整っている。でも、その中身は?「相手の気持ちに寄り添って」と声をかけた寅子だけれど、彼女が何を「寂しかった」と表現したのか、その中身に触れることはなかった。「どうして信じてくれないの」という言葉は、妙に浮いていて印象的だ。

瞳さんは、いつ、誰に、何を、信じてもらえなかったんだろう。信じてもらいたかったんだろう。

きちんとした夫とふしだらな妻、そんな外観の中身はどーなんだ。あの場の誰にもわからない。

スポットライトはあたるけどさ

ところで新旧ルールの違いはいくつもあるけど、スポットライトの当たる先が違う点は大事なことだと思う。
新しいルールが個人の尊重をうたい、できる限りまんべんなくスポットライトを当てようとするのに対し、古いルールはそもそも個人を相手にしていない。家族を単位に戸主の真上から当たるライトは、個々の家族の顔を影にしてしまう。

「この家のあるじはトラちゃんなんだから」
新しいルールの担い手だともてはやされる寅子&その「新しい家族」だけれど、その意識はまだ旧いルールのままだ。花江ちゃんもみんなも、寅子をリーダーとして戸主さながらの責任を期待するし、本人の自負もある。

竹中さんの取材時なんて典型的だ。
「家族ですもの。支えて応援するのは当然です」
「姉のおかげで大学に進むことができました」
みんなで寄ってたかって「完璧な家長」を仕立て上げ、やんややんやと光を当てる。ロールキャベツの影の洗い物、美容クリームの影の荒れた手、84点の影の31点、賞賛の影の悪口…外観とは裏腹の、強いライトで生まれる影は個人の表情を見えなくさせ、すべてなかったことにする。お互いに。そう、お互いに、だ。

むしろ民法は現実の家庭生活を目標にしてその中で人々が互いに尊重しあいながら協力していくような民主的な家庭を作り出そうとしているのであります

ドラマ虎に翼「日常生活と民法」星朋彦

寅子が書いたこの部分を「いいですね」と航一さんは言った。でも尊重、って2文字で表現される概念を、行動に結びつけるときの困難を思う。

「いつの間にか感謝を忘れていたわ。ごめんなさい。」
「盲点だったわ。ごめんなさい。」

ひとつひとつの指摘に深々頭を下げ、尊重ではなく道徳がなってなかったと謝罪していく寅子の姿は、見ていてとてもキツかった。
「これから改めれば問題ないわ。悪気はないのは彼女たちにも伝わってる」と尊重の不在を指摘するのではなく道徳で諭す梅子さんもキツかった。

だって、寅ちゃんは寅ちゃんだけでできている訳じゃないから。「すごいよ」「さすがだわ」って寅ちゃんを求め、期待し、作り上げたのはあなたたちみんなじゃないか。それを個人の至らなさに、道徳にのみ帰結させることのすわりの悪さったらない。
多分、民主的な家庭を作りだすためには、責任とか寛容とか思いやりとか感謝とかの道徳の「前に」お互いを、そして自分自身を尊重する新しいルールの適用が必要なのだろう。

新潟行きで家族は別れることになったけど、物理的な距離はいまこそ必要だったのかもしれない。
これは寅ちゃん&花江ちゃん360度評価。ふたりとも、そのスポットライトから少し離れてください。
「土台を固める」必要があるのは、多分寅ちゃんだけじゃない。
道徳に帰結させる前に、新しいルールに則って自分で自分を尊重するべき花江ちゃんにもかかるのだ。


さて、新旧ルールもどこ吹く風。オレらのルールを貫く人々がいる。人間の集団は難しい。

いわゆる都会っ子のワタクシ、第16週の感想、書ける…かしら…