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「差別」のしくみ_20240315

図書館に置いてあった本を手に取ってはや1ヶ月近く、気鋭の憲法学者である木村草太東京都立大教授の著書を読了しました。
各章はコンパクトで読みやすいのですが、内容が難しい章になると途端にページをめくる手が止まってしまい時間がかかりました。

「差別」とは何なのか?
その定義を示しつつ、奴隷制を合法とした過去をもつアメリカやイエ制度に個人を縛り付けてきた近代日本でどのような歴史的変遷をたどってきたのかを論文や判例を示しながら説明してくれます。

そして、昨今の差別事例として「選択的夫婦別姓」や「同性婚」を取り上げ、同性婚では各地の裁判所で出された判決を分析し、違憲とした判決であっても異性カップルのための「婚姻」とは別の制度を許容する解釈をする裁判所に対して理論的な誤りとし、別制度で何とかすればよいという裁判所の態度そのものが「ストレートな差別感情の発露」であると断じています。

本書の中で著者は、差別に関わる概念として下記の4点を挙げています。

①偏見:人間の類型に対する誤った事実認識
②類型的情報無断利用:人種や性別などの所属類型に関する個人情報の無断利用
③主体性否定判断:相手が自律的判断をする主体であることを否定する判断
④差別:人間の類型に向けられた否定的な価値観・感情とそれにもとづく行為

このうち①から③が一般的には差別とされることが多いが、④こそが差別の本体であり、①から③は差別に起因する言動であるとして、④を「狭義の差別」、①から③を「広義の差別」と読んでいます。
つまり、自ら変えることができない「性別」や「人種」、「性的指向」といった要素で人を区別をすることが「差別」なのではなく、「女性活躍が気に食わない」とか「こういう人種や性別だから活躍してはいけない」といった否定的な価値観や感情こそが「差別」の本質であるととらえています。

そう考えると、前述した同性婚判決における裁判所の態度を「ストレートな差別感情の発露」と断じていることも納得できます。

タイミングよく、昨日東京地裁と札幌高裁で同性婚訴訟の判決が出されました。

各地の裁判所で「違憲」や「違憲状態」という判断がだされていますが、それぞれ論理構成が違い、裁判官の色や思想が出ているなぁと思います。
その中で、札幌高裁の判断は「差別」の構造的な部分に踏み込んだ判決であり、他地区の高裁の判決が今後どうなっていくのかが注目です。

出典:時事通信ニュース

こうして、各裁判所の「差別」や「区別」に対する判断の違いを見ていると、裁判官も所詮は人間、育ってきたバックグラウンドが色濃く出ているなぁと思います。
そもそも、悪しき弾劾裁判にもうすぐケリがつく白ブリーフ岡口判事のようなリベラルな存在は裁判所のようなヒエラルキー社会(裁判官版の白い巨塔)では稀有でしょうが・・・

今後、同性婚を是認する世論の流れに押されて最高裁でも「違憲」の流れに行きつくのかどうか、たとえそうであってもたいして伝統的でもない伝統的家族観の維持にこだわる政府と与党がくだらないメンツのためだけに法改正を遅らせる姿が目に見えるようです(笑)

内容が逸れましたが、著者はあとがきの最後に「本書が、差別をする人に自覚を促す活動の一助になることを願っている。」と締めくくっていますが、差別をする人は無自覚だと著者が書中で言っているように、自覚を促されていることすら気づかないんだろうなぁと思いました。

人は、一発で髪の毛が白髪になるくらいのインパクトある事象に出会うなんてことが無ければ、決して変われませんから。

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