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あなたの燃える左手で_20231031

新聞の書評欄に掲載されていて気になってた本を読了しました。

作者の朝比奈秋氏は現役の医師ということで、これまでも人の身体と医療をテーマとした作品を書いてきたようで、本作での描写もリアリティがあって、読んでてゾクゾクする感じでした。

舞台はハンガリー、病院での誤診により理不尽に左手を失い喪失感と幻肢痛に悩まされる日本出身の主人公が、まったく他人(ポーランド人)の左手の移植手術を受けた結果、違和感と拒絶反応によりさらに苦しむことになるのですが、そこに移植手術を行ったハンガリー人医師の観察眼と、クリミア半島出身の主人公のパートナー女性の生きざまが重なり合うなかで、単なる医学的な感覚ではなく、日本という島国出身の主人公と、侵略と分断の歴史をもつ大陸出身者との、領土や国境に対する感覚の違いが投影されていく様がこれでもかと描かれています。

なお、手の移植手術は世界的にもレアだそうで、日本での手術例はないとインタビューで筆者が語っています。

医学的にはそこまで大変な手術ではないようですが、手そのものがなくても生死にかかわらないことや免疫抑制剤を飲み続ける必要がある点などでハードルが高いようです。
そして、日本においてはその発想(他人の手を移植する)そのものが生まれてこないようで、本作ではその原因を島国で国境がないことに求める描写があります。

私たち島国の人間には容易に理解できない、侵略する・される人間の感覚を人の体と国境を重ね合わせることで、より身近にイメージさせてくれるという点で、ウクライナ侵攻を取り扱う作品として異色だなと感じました。

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