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リタトリップのはじまり スリランカの旅

「発展途上国の人たちは、観光客を『歩くお金』としか見ていない」

僕はどこかこんな偏見を持ったバックパッカーでした。
しかしスリランカで出会ったタクシー運転手のサガリは、現地の人しか知らない情報を教えてくれ、出会ったその日に僕を家に招き「世界一おいしい」という奥さんの手料理カレーを無償でご馳走してくれました。
リタトリップをはじめるきっかけとなった原体験の1つです。

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2014年8月、僕はバックパックを背負い、インド洋に浮かぶ南国の島スリランカを訪れていました。最大の都市コロンボは活気がある街ですが、いまだに貧しい生活をしている人も多く、発展途上国の色が濃く表れていました。何年も着古した服を着ている人がそこらじゅうにいました。
外国人の僕が道を歩いていると、たくさんの人が声をかけてきました。
「どこから来たんだ?地元で一番おいしいレストランがあるんだ。案内してあげるから一緒に食べようよ」
「まだガンガラーマ寺院には行ってないのか?よし俺がガイドしてやる、安くしとくぞ!」

途上国で暮らしている人は、観光客を「歩くお金」としてしか見ていない。僕はずっとそう思っていました。「貧しいものは富めるものからいかに搾取するか」、途上国なんてそんな考えの人間ばっかりなのだと。だいぶ偏見に満ちていました・・・

そうであったしても、日本にはない独特の雰囲気があり、僕は途上国が好きです。地元の人との何気ない会話や、観光地化されていない場所で、ありのままの地元の雰囲気を感じることにとても魅力を感じるのです。

サガリとの出会い

旅行中のある日、ホテルに向かうために1台のタクシーを拾いました。運転席には30歳前後の肉付きのよい小柄な男性が座っていて、ホテルに向かい始めるとすぐに話しかけてきました。
「俺の名前はサガリ。よろしく!」

それからすぐに、「絶対に行くべき絶景の場所」、「観光客以外はあまり近寄らない危ないエリア」、「観光客にはあまり知られていないけど地元の人には人気のお店」など、を教えてくれました。手元にあるガイドブックには載っていない情報が多かったため、はじめは怪しいなと感じました。ただ、心底楽しそうに話しかけてくるため、だんだんと彼の言うことを信じるようになり、ぜひ行ってみようという気持ちになりました。

話の途中で、ホテルの近くで夜ご飯を食べたいと伝えると、
「残念だけど、今の時間はもうどこも閉まっているよ」と返ってきました。繁華街から離れたところということもあり、店じまいが早かったのです。サガリはこう続けました。

「もしよかったらウチに来こないか?俺の奥さんのカレーは世界一だ!」
そう言うやいなやサガリは方向転換をして別の方向に向かい出したのです
これはまずい。
当時の僕は偏見を持っていたこともあり、食事を出したあと高額な代金を請求するに違いない、と思ったのです。
お金の一部は靴下の中に入れたほうがいいか・・・などの思いを巡らせているうちにサガリ家に到着しました。

世界一おいしい奥さんのカレー

家はこじんまりとして、タクシー運転手の稼ぎが如実にあらわれている感じでした。キッチンに入るとカレーの支度をしている奥さんがいて、その横には小学生ほどの2人の男の子が、目をきらきらと輝かせながら鍋の中を見つめていました。

それからすぐに食卓に世界一おいしいというカレーが並べられました。見た目はあまりカレーっぽくなく、どちらかというとシチューのような色味。一口食べてみると、とにかくうまい。何を組みあわせたらこんな味になるんだろうと思いました。これなら世界一だとサガリが自慢するのもわかる気がしました。

食事が終わると、奥さんと子どもにお礼を言って僕とサガリは車でホテルに向かいました。お金を請求されることはなかったため、不思議な感じとともに、何となく悪い気がしました。何かお礼をしたいと考え、翌日タクシーを1日貸し切って観光案内を頼むことにしました。観光のあと十分な支払いをしようと考えたのです。

利他の心

一夜明け、朝9時にホテルの前でサガリのタクシーを待っていました。すると、トゥクトゥクという3輪のタクシーが目の前にやってきて、運転席から体格のよい男性が「サガリのフレンドか?」と話しかけてきました。
サガリは来れなくなったことや、代わりにその友人に観光案内を頼んだこと、を簡単に説明してくれました。僕はサガリはなぜ来れなくなったのかと聞きました。

「こうやって仕事をくれるんだ。俺だけじゃない。ほかの友だちにも同じことをしてくれるんだ。サガリのおかげで俺の家族もなんとか食べていけているよ」
理解できなかった僕は、なぜサガリがそんなことをするのかと聞きました。
「サガリは人とのつながりを大事にするいいヤツだ。いつも俺たちにこう言ってるよ」

「自分がしてほしいことは、まず人にしてあげること」

サガリは自分が逆の立場だったらどうしてほしいかを考えているのだとわかりました。だからたまたま出会った僕を家に招待し、奥さんの手料理を振る舞ってくれたのです。

見返りを求めないおもてなしに感動しました。同時に恥ずかしくもなりました。途上国の人間は僕らをお金としてか見ていない、どうやって奪い取るか、自分さえよければそれでいい、そんなことしか考えていない人間ばかりなのだと偏った思い込みをしていた自分に気づいたからです。

サガリと彼の家族からは、世界一おいしいカレーだけではなく、とても大切なものをもらったことに気づきました。「自分のことよりも、相手のことをよくしようとする優しい心。利他の心」を。

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この体験から、僕のように、地元の人しか知らないような情報が欲しいと思ったり、地元の人と話してみたいと思っている旅人はきっといるはずなのに、その手段がないのがとてももったいないと思いました。

同時にサガリや彼の家族に何か恩返しがしたい、何かできることはないかと考え、地元の人にとっては「あたりまえ」なのに、旅人には「とても有益」な情報が行き交うプラットフォームを構築するアイデアが浮かびました。

それが、外国人旅行者が旅の悩みや疑問を質問し、地元の人が回答してサポートする旅行Q&Aサービス『リタトリップ』の開発につながるのです。

また将来的には「だれも、何もしてくれない」 南スーダンでの経験とを結びつけて、今は貧困で苦しい状況だったとしても、『あらゆる人が利他の旅を楽しめる世界』をつくりたいと考えています。

リタトリップWebサイト:https://ritatrip.jp/


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