生への執着探偵 往足 永鷲朗*にほへ(2)

頭が軽ぃ。
いやしろ重ぃ。
自分自身の軽さがこの世界の重力でこんなにも重ぃのだ。
ぃゃ。 それは、むしろこの惑星の引力に反比例して重力を意識から振動しんどう遷移せんいし加減させ
まるでどちらが、空なのかさぇ、―虚間くうかんうちうつつうつろにわからなくさせる。
無機質な、情報量のなぃ白光がまぶしぃ。
事務的な定命ばかりを照らす純白の光は凸凹なおのれに色をつけてはくれなぃ。
そんなデクノぼう達がやかましすぎてがってえぐるよぅだ
針のむしろ
まるで坊主ぼぅずのよぅな

大袈裟おおげさにドゥルンッ、と牛のいななきのよぅなひびきを立て
ぼゅり、と全車体ぜんしゃたいらし
停車する。

白銀はくぎん縁取ふちどられる男のたくゎえた乱れ髪みだ がみと、
分厚ぶあつぃバックミラーの黒ぃあごを影にして、 その隙間すきまのフロントグラスへ強烈な白光が燦々さんさんそそぐ。いゃに山道を揺られはずけてきた感覚がみ付ぃた身ににとって―いまのこのあまりにせいせいしたしずかなバランスはフラットなぎ波間なみまから岩べりへぉりだされたよぅな、腑抜ふぬけてりおちそぅなほど調ととのった車軸しゃじくのひたりくらりとまる姿勢にある。
駐車場だった。
とてもまぶしぃ。 「ん゛…」 視界の先、この車内のはばにしてはひろながめよぃフロントグラスのスクリーンに―
コンビニだ。 つまりはコンビニエンスストアシステム、の前。

―UFOでもあらゎれたかのよぅに、逆光をにし男がり返ぇる。 プラチナの髪先がまだゆるくしずり触手のよぅにうごめいてぃる。
雪崩なだれるよぅな頭をはみださせてひとつながりに横長よこなが後部こうぶ座席ざせき寝添ねそべったまま、また、あの時のよぅにがあった。
男は少しかたらしてぃる、ガラス繊維せんいの透明感をびた瀑布ばくふか-稲妻いなづまみたぃな髪の刃先の無数むすう羞明しゅうめいうまる空をり白くきふるぅ
き、とったのか」
「そぅみたいですね」
むしろいつの間にかねてたのか。
前座席まえざせきから男の手が伸びてきた。 それはあのやわらかぃほのかな自然光しぜんこう達のあゎさの中より、その蛍光の中で脚光きゃっこうめぃた、純粋的明度ホワイトアウトこう水の中であまりにもりゅうのしぶきの軌跡きせきを持つ燦然さんぜんとした虹色のつやめきのうずのしらべをぃたもので、その重々湿おもおもしめ大振おおぶりな袖口そでぐちせまるへおののくより先にぽやり、すこし見とれていた。
めん喰らったつらをしめった微熱ぬくもりがのむ。
「ここでぢっと待っておれ、少し、ってくる」
そんな風景もあって、まだいくばくか夢見心地ゆめみごこちで、
「はぃ」
ただそのきせきのうるかすまま
返事をした。うなずき-かけた頭は
そぅ 「車よりりるんでなぃ」 言付ことづけをする
初めよりもより強さのこもる男のてのひらにおしかぇせもせずめられた。力めずも動けずもだまってると
それを相槌あいづちと見なしたかのよぅに、
「…」 まず男は車体しゃたいの中より窓をながめて周囲を見計みはからぅ。爬虫はちゅうねらごとくどこかするど目付めつきだった。それをやはりぽんゃりみてぃると、それはこちらへ針金なさまにしぼしめりられた髪の狭間から一縷いちるきらめき持って焦点しょぅてんに合ぃ、ほど結ぶともしびのよぅに言葉ことばげる
「わかったか、一つ約束がある」

返答へんじゎりに眦筋まなすじをしかとまばたきせずあわせる
「絶対に、かがみを見るんじゃなぃぞ。」
ゎかりました 鏡とはなんの事かそれをおも辿めぐる気もなぃまま …確しかそんなふぅにとろりとぇすと、しゅしゅしゅと湿ったうろこる音を立て腕は引っ込み、そして男はゆっくり手元のバーの柄握つかにぎり車のドアを開け、その偏光色の上衣を着たのまま外に出てドア閉じ、一瞬の生命せいめいの匂ぃの静寂しじまと閉鎖-その無音の画象がぞうのなかでやはりカナブンでも迷ぃ込むよぅにコンビニの入り口へと入るのが横の窓から白々しらじらく場末の漫画マンガのコマの様ぅにみぇた。

さて、ひとり ゆったりしたりするにも、 真正面ましょうめんのまともにくらめきくらぅありありしさはあまりにもこぅ目にいたくまばゅい。
だのでそこかららすよぅに、そのドア横の小窓こまどから見ぇる―立体感もなく、やゃななめへられたハコの内からVRヴァーチャルみたく浮かびあがる視界の中のその奥までの無機質むきしつな角、 さし迫るよぅに懇々こんこん四角四面しかくしめんと光るコンビニのガラス壁のそのはじ、それはそんなあかりたちの義務からせめたてることもうけず なく 離れた-ほのかにうらぶれたフードコートが心ばかりあるよぅな暗ぃほぅをながめていた。

その背は依然闇いぜんやみ、世界が切落きりおとしたよぅな幾何学きかがく健気けなげに常夜灯をし込めたヒトの為だけの硝子箱がらすばこを抱ぃて静かな山の気配はほんの少しだけ遠ぃ風をそよぃで、

それがなをさら鋼板こうばんに囲まれた厚い車壁しゃへきさえぎられる
そのわずかな隙間すきまよりあけすけにこもった音質おんしつ気密カプセルのこのむこう側、 また、目にも閉塞ふさがれたこの静かさを胸へ質量化しつりょうかする。

まるで深ぃ濃紺のなかへほぉり出された孤独な脱出ポット―そのひどく矮小ちぃさな宇宙船のよぅに
寄る部よ べ逃げ場に ばもなぃ、まるで息苦いきぐるしぃへさますよぅな―。 まぶしすぎる店内の明度がその心影をより透明スケルトンくする。

人がさがしているのは光の海そのものよりもそこへかぶ影なのかもしれなぃ。
すると、そこへ黒点こくてんのよぅに浮かぶまるで間 隙のよぅな"なにか"が目についた。かゎらぬ姿勢しせいのまま
よくらせば、
それは一対いっついはねを光のかべ張り付は つかせるであった。

その硝子の水槽が、ひびでも入ぃってしまったかのよぅに、穴でも空いたのかのよぅに
それは偏平へんぺいしかけた遠近感えんきんかんに気けばみるもほどほどに大きくて、そして、光彩陸離バックフラッシュの白がより鮮明にその羽へと色彩が溶けて-目にれてゆけば、モアレのよぅなほの褐色かっしょく紋様複雑もんようふくざつ駆る抽象色かけ  ち ゅ う し ょ う い ろにははね両肢りょうしも一つずつに双眼そうがんのよぅな模様がぃているではなぃか。その渦巻うずまぃた目玉の印象いんしょう
自分のしろやみ硬直こうちょくしかけた心臓をすこしどきり、ぎくりとさせた。

気が付けば宙ぶらりんの意識のまま、目線めせんが引きせられてぃた。
集中するほど眼膜は引き締まり、とぉき狭間の岸部きしべにあるよぅな、その蛾のぞうはその外の世界をぼやかさせながら鮮明せんめいになってゆく。
そのめだま模様もようはそちら側から亜空あくうの覗く、ぽっかりあぃてしまった別の時空の入口のよぅに、まるで視覚しかくすれば知覚ちかくするほど吸ぃ込す こまれるよぅなしんえんをたたぇているよぅに
おぼぇているのだ

それは異時限ジゲンの擬態。
これはむこぅハテか、それともシガンなのか。
明滅の隙間もなぃ灼然しゃくぜんき続づけている

その空の間隙かんげきるで無粋ぶすいな神秘のよぅにって―
ぃや、普通にご定番ていばんの科学の力なのだが
俗世ぞくせ象憬しょうけい背請せおおぅにもかぶ極彩色オーロラ
朧気おぼろげ神気しんきらゎれていた自分にとっては、そのたちきりの
急な"非"日常にちじょう回帰かいきは モーセの伝承でんしょうぃがごとくそぅおどかせた。
目線の景色をさえぎり、
コンビニの自動ドアを開けて、男のすがた帰還きかんする。

相変あいかゎらずの現代社会げんだいしゃかいには衝撃的しょうげきてきな色調についぞ余計よけぃえる野暮やぼなぼさ頭は、近代性倫理リテラシーへとかちこみ連れざる闇にもやはりまだあやしく湿しめっている。
彼を相手あいてにした店員の表情かお好奇的こうきてきにも知りたぃ。
そんなふぅなれなれてみぇた姿にすこしほっとしたのが、やはり自分はどこかもぅおかしぃとおもった。

ドアを開け再び車内に戻った男の身が
その手ぶらにぶらりただ掴んでいる、買ったものの袋はなく、手にへとそのまま持っている。

それはまず何か簡単な平らなものと、それを-そして、それだけ助手席の無ぃ空間の床へ放り投げたあと、
まだ手へに残されていた、何か頭一抱ひとかかぇぶんの、なんだ
よくみればそれは確かに帽子だった。 いかにもこの山の中に似合いそぅな素朴な形は

窓からもれる光に照らされて、それはドラマティックな演出込めて蛍光グリーンの発色のせて―その詳細なディティールが浮かび上がる。

『メロン』 確かにそぅかいてある。
描ぃてあるのではない、
 如何にも文字で書ぃてあるのだ。
ぉいおい。なぜになんだ。
メロン それは
遠慮無き佇まぃで
堂々たる存在感を放ち、
しかもよりによって野太のぶと明朝体みんちょうたいのよぅな硬派な書体しょたいでである。
でかでかとメロンが書いてあるのだ、でかくメロンが。でかぃメロン
このあまりにもありのまんまでありありあることことのほかなくへリスペクトをした
古人こじんの知力しっかりとした古式こしきゆかしさとモダニズムの間で連面れんめん精練せいれんされた-まさにテキスタイル-デザィンが丁寧ていねい刺繍ししゅうしてある仕事のさは、頑固がんこでなを素朴そぼくにそのほかの解釈を許さんとゆゎんばかり、
愉快ゆかぃ剽軽ひょぅきんのはぃる隙もなぃい"シャレのなぃ"せつなさすらおぼぇる―あるんだょな田舎いなかにはこぅいうはからぃなセンスのお土産みやげとかが…。そぅゆぅの買っちゃぅタイプですか、あなた。 なるほどと
「これかぶっとけ」
次の瞬間しゅんかん、男の手により それは自分の頭をすっぽりとおさめてぃた。
「ぇえ〰〰ッ!?やッすよぉー!!」
しかもこのおぼぇが確かならば全力メロン前面で丸出しである。
今までさんざ対岸たいがんの突っ込みを入れてきたこの爆裂印象一発焼付派ばくれついんしょういっぱつやきつけはアイテム一つへ一億総評論家現代社会自己が他者へ正にその身かけ全身で顕示けんじする己のファッション-つまりセンスの塊といぅアィデンティティー自体を持ってかれてたまるかってぃうんだよ!
そんな若き感性の繊細せんさいさがほとばしる、この不条理ふじょうりな冗談をたしかめ態度でいさめるため ゅるい悲鳴を上げながら手近なかがみ、そぅだおのれの姿をバックミラーへ―のぞうつり込もぅとさせんとすると

突如あま粒みたぃな純な透明でするどぃ光点の破片が飛び散った
あまりのことに意識の。 タイムラインがとび、
きゃり チャリ パリ
、遅れて音がやってくる。
思考よりやくやってくる
ゾクッ、とした背髄せすじ
いたいたしぃまでのめたぃ蠕動ぜんどう
「見るないぅとろぅが!!」

みぢ 、 その残響ざんきょうを捻じ衝けて
男のがバックミラーの中央を打っていた。
そのかたにぎった掌にはあのメタルアクセが指先にすがらも-ぎらりがぐるり巻き付いてぃて、その鋭角が、わずかのよぅにゆっくりとぎらめぃてみぇていた。

無骨な構造機関こうぞうきかんきし関節かんせつと車が揺れた振動しんどうが、山風なぞる静寂しじまのあとにやってくる。

あっけ にとられたあと、その顔を合わせる自分を睨み付けている男の面は、その空間くうかんを切り裂く迫真はくしん諧謔いびつ壮麗そうれいだと思ぇるほど生真面目きまじめ眼差まなざしだった。

おもわぬもままに射抜いぬかれてか―が、拍子ひょうしけてか
-なんだかひどく、さらに虚脱きょだつして、―一寸あとに、まるで当然とうぜんの世界を 我がみずから取り戻すよぅに。気がめたよぅな思ぃになって、
「…ゎかりましたよ。」
ただねたよぅに、
なんだってんですか…なにもここまでやるもんじゃなぃじゃなぃか、
 もぅ。
ゆゎれたとぉり目線をはずし、席にもたれて自分は戻った。

男はそれをはたまでも確認するよぅみとどけて、 「…」 そのあとうつむきがちに黙って手の甲についた欠片かけらを払った。 助手席側の虚空でぃちり星空のよぅに光っている。 またあの布擦ぬのずれの蚯蚓みみずくよぅな音が鳴った。
そんなことしてきずつくのはよけぃあなたのぅだろぅ に。
いつまでも真剣しんけんになりきれなぃ空間のなか、
また動き出した車の内で、 ―すこしだけ新しく欠片の星の降る音が傍で鳴ってぃる
そこにもぅなんの姿も写せなくなった、ミラーのことをおもぃながら
―どこかさきほどみたよぅな  寂寥
ゆるぃゎれなき罪悪感ざいあくかんが己へも立ち込め、そんな気分のもや曇雲くもりのなかにある中、
そのくらがりで

「…ボーズ」
遠ぉのく意識のふりこにかすめて声は聞こぇたが、
思考のしどろもどろにしなだれたまま
そのままほぉられた闇にしぼられた目蓋とばりがだぃた瞼をはめて嵌崩落うなだれた脳裏かたくとざすよぅに

また眠ってしまった。

その穴のあぃたあたまにはメロンぼうを乗せて。

*

かなしかったわけじゃなぃんだ、ただ

車がいつの間にか、また停まっていた。
眺望ながめの先、天窓てんまどのよぅにうつる場所―の-それは林間の景色のもので、それはまた夢々ゆめゆめしぃ岩彩画のよぅな色に染まっていた。しばらくまた、夢のつづきのよぅな浮遊的感覚ふゆうてきかんかくのあと なんでもなぃ景色けしきのこと、風景画ふうけいがってのはなんでわざゎざ絵に描くのかな、 何て思っていたが、こぅしてみるとたしかに心にうつものがあるんだな。 なんとなくそぅいうぅに考んがぇていた
だけどむりにせまくなろぅとちぢこまりそことどまる身の丈み   たけの感覚はやはり不躾ぶしつけにだんだんいたくって
乱暴やんちゃな穏やかさに幾度いくど目かの同じ朝を目覚める。
いつの間にか横になっていたベンチシートからはみ出したその頭は、ぷらりんと"無"の右側の助手席よりつづく絨毯じゅうたんの濃色の海面みなもへいまにも着水ちゃくすいしよぅとしていた。

なんとなくうまぃことひねって身体を起こす。がさり、イヤミなほどぴったりな
やゃキツぃあの帽子ぼうしのことと、その-その片付けられた光る欠片の名残もなぃことと。

しめつち草の匂ぃがして、あの男を想ぃ出す。 なんとなく不れに空ぃた右側の、その反対側の左前方ひだりぜんぽう座席へ眼を向ける。
あの男の後頭部のやに嵩張かさばりもじゃつぃた髪の毛束けたばがある―はず運転席うんてんせきにそれはなく姿もなぃ。 それはまるで絵画を"リアル"に映写えいしゃする
緞帳かやの如く、車体の前面ぜんめんへと大きく淵々すみずみまで広がりをつフロントグラスをなめるよぅにとろりとした果実色の朝焼けのむらさき
 ぽかんと口をあけている。
湖畔こはんからの出発から、そしてあの-
やゃよくない夢遊むゆうのよぅなコンビニの駐車場から。 また己はすこしうたたねしたらしぃが、 この季節のゆっくりした日の傾きのなか 時間はそんな程なくまわりたってはまだ無ぃ様だ。

この空が染めあげる世界は、 如何いかにやもまるでネオンともいぇる総天然色そうてんねんしょく
この空にぬりたくられた奇跡きせきのよぅな夢々色ゆめゆめいろたとぇるなれば、あまりにも多幸色たこうしょくの光のなか。 足許あしもとのこぃねずみ色のカーペットを指先に ― すこしだけちくりとするのを手でさすりずりずりだしながら這ぃ出は だせば、 爪先がなまっこぃ塊にンじゅっと触れてぎょっとした。ダッシュボードの裏の足がもぐるはずのところをもととしてソレがつめこまれたあたり、闇を光を湿気をまだ吸ぃぎたぎたとしたカタマりが〰光をこんもり曲げた布さきりあがりも目玉のよぅにかがやぃてるのだ-これはいかにも…あの男のかの立居住たちいずまぃの存在感をかもしていたがらとしての仰天色の上衣である。 そのうなぢのちぢむ驚きのいきおぃのはねるまま目へはぃった ―
左手むきに見ぇる運転席のシート上には、なにか四角ぃ平らな光波を反射する  空ぃた窓の朝風にもふるぇている- かる空き袋あ  ぶくろが投げ出してあった…のをみやってりて
助手席側―いまは目の前の右手の車のドアをける。そこにひろがる景色は といぇば、
綺麗事きれいごとなまでに 足並あしなゎせた
手入れが入った 木立こだちまたぞろな
林業用りんぎょうようの山中で、
枝打えだうちされた針葉樹しんようじゅ背丈揃せたけそろぇて鉛筆箱えんぴつばこよろしく規律キリツよく並んでぃた。
木木
木木
木木木。
早朝そうちょうのそれは、人間の想像そうぞうを理想的なまで掏り抜す ぬける~よりシュールなリアリズムにでも-まるで常人ならず場所へ迷ぃこんだ幻想を思ゎせる。
男が近くに居るはずだ、
それは孤独こどくへの不安の思ぃが心根む間もなく見付みつかった。車の右側からのぞ
荷台にだいはさんで向こぅ側、
まるで無機的むきしつ樹影こかげのつくるモダニズムな縦縞シマをまた背景に、
それでもこの年季にひなびれた車体に寄り添ぅように、見馴れた-ふくゎかな~朝の、緋差ひざしに染まる〰 あの頭髪の男の身代みのしろの丈がはたりあった。

あの刺す光と違がって ―花木がむせるよぅな頬紅色へつつまれる
いま
ここははらはら満たす穏やかさだ。

「… 」

世界が明るぃ光につつまれたなか、その白髪もそこそこに透き通ぉってみぇれば おもぅほど多くたくゎえた頭髪のなかで この朝天に混じった桜の花弁の姿いろに染まった
神々が黄昏をとじこめたあと。そのあとにもぅいちどきた夜明けのよぅに、 その霧風にたなびくのがあったのを

それはよぅするに、あの仰々しぃ上着をぃでいて
もうかわぃたよぅにびく毛足は透明に蜉蝣かげろうはねのよぅへ耀ちらめっていた。 山にかかる薄雲のよぅなそれも肩口にさゎりからむ羽衣よろしくつつみこんで撫でるよぅな
その肌を大気にさらすままあらわになってぃた彼である。 それはあまりにもあるよぅでなぃよぅで、 ―といぅのも
彼のからだにはところどころじゅぅ裂き布さ ぬのが巻かれているのである。あのからだ隠すよりも意地張いじはってみぇた玉鋼たまはがねの鎖のよぅなメタルアクセだけではなぃ、 その皮膚といぅ、皮膚には更に
なにか、と-みるには手当てをするよぅな、絆創膏か、とかくふだ… 程度のもののなにやら貼布と―そして包帯としてのらしぃそのものがそこへあるわずらぃもわからぬまままとぅよぅにまきついていたのだ。

「ボーズ」
名前を呼ぶまえ
こちらに気づかれ、意識は|現実へ戻る。
外へを乗りだす前に―自分のぁの『メロン』帽を、指でまみ頭にかぶったままそのつばのなぃ前面をうしろゎした。 ようするにあの己ならざる自己主張たるセンスへの自我じがとしての抵抗ていこうである。
ひたいにあたった後面はキャップよろしくスナップバックとなってるが、そぅして通気よくなった頭に絆創膏ばんそうこうりかぇたよぅなゎやかな朝の気がぬくまゆぃ
「ぉっぅ」
このすずしげにはんしその動きをみてまた男が半裸はんらのまま過竦くんでいた。 かの神聖画イコンにすらみぇたかげはとたん小鳥のよぅ―ぃやそんなかゎぃげなありらしぃものでなく、むしろ夜鷹だな…〰この人いつもなんかちっちゃぃことでびびるな。
なんか趣味じゃなぃ帽子くらぃかぶっとぃてやろぅとも憐憫れんびんにもおもぅものだ。といぅ自分はやはり人が良ぃだけなのだろぅか

男はといぅと、一抱ひとかかぇの薄手の布で両腕がおおわれていた。といぅのもそれをいまにも着ようと腕を通ぉしたきっとところで、すぐにも頭へまるんっとかぶって、脱皮のよろしく首をだし着衣ちゃくいをまともにすれば、それは-こぅ…なんたる色の名として また他の意味いみでなんともいえぬ柿渋色の〰といぅよぅな地味さだろぅ。
―先程ちらり-のぞぃただけのピンクのパステルみたぃな印象色インプレスが塗りたくった
そぅだなあれは-あれはただ鑑賞か、使命の為に道の側に人の手で植ぇられて、人濤ひとなみけぶに傷付きながらも無理矢理立たされている街路樹がいろじゅのよぅな、なんだかそんな―裸身のことは、 もぅ幻の記憶のよぅにおもぇてきた。

そんな肌着はだぎに着替えた男はこれがまたぇないだけの背景けしきにももぐる一般的人物いっぱんてきじんぶつへみぇたが、
その服の襟繰えりぐりへにきれこむののV字ブイじはなんだか始祖鳥しそちょうのガラのよぅにきわった鎖骨の凸まで見せてよけぃに深く、袖の裾も見るにつけたるんで指へへもおおっておるわけで しかもなんかちょっと腰の裾までそぅでかぃ。
あののどかな山奥のコンビニ店舗でやむ無くか、また小ボケでも起こしたか、かくや見栄でも張ったのか。
なんとなく着流しさぇ想起する、草臥くたびれた浪人の。 衣裳のよぅに片羽すんたらずの
その―  名誉のためにゆぇば…いままでもこれら服そのものはそれなりのものがきちんと着れば必ずやにわるくなぃ筈なんだけど―その男によりそれは絶妙になんだか寸手のところできまらなぃなとおもぅのはなぜだろぅ。

ともかくも"普段着"になった男はすぐさまドアをあけ車の運転席へのりこもぅとする
「出るんですか?」
「着えただけだ」
ドゥッ、 とドアが締まる。
ぁあ…そぅいやあんだけ水くささの煮浸しのサヴァラン状態でしたもんね。
そんくらぃ普通の感性あるんだ、などと皮肉めぃたあと、割れたバックミラーが不機嫌ぇた虚無の面に鎮座する車内シャナイ
男の存在感に開ぃた感性センスの気道はまた封鎖される。
「-もったぃないじゃなぃですか」
なんとなく、口をつぃてでてぃた
「そぅだ、時間があんまりなぃ」
男はエンジンをまた掛けた。感覚かんかく相棒あいぼうのよぅになった震動しんどうが肩をゆすった。

うろの助手席の足許のくらがりでぶるんっとるぇたひとみにまたぎょっとしながらもその換羽ぬがされてしまった虹色の布目にもぅ馴れる。

薄紅色うすくれないいろ陽光ようこうに染められ日常の景観けいかんになって―とぉのいてゆく-樹冠じゅかんのなか、
どぅやらこんななか男は本当にただ着替ぇに来ただけらしぃ。
少し舗装道ほそうどうかられたところで、 まぁ何でこんな粗野そやな成人男性がいまさらだって。 あまりいぅことでなぃけど
まぁそぅいう人か。それでなんとなくすべて納得してしまぅたった今までの時間ぽっちである。

わりとあれより大人おとなしげな姿になった男と、足許にあの山陰やまかげからつかまぇてきた宇宙生物のよぅな布かたまりが時々のぞくほか、ほんとうに父子のかゎらぬドライヴかのよぅに風景は発車した。

*かがやくものぜんぶを幻にして、
日常ばかりがおぉきな面をするこの世界のなか。
なにをささぃな反骨をしよぅか。
「…空、きれぃですね。」

男がすこし振り向ぃたよぅな気がした。ただ道の前をひたむくことはやめなぃけれど、すすけたけれどみがかれてよけぃ次元の膜ぢみた窓の運転席はその腕ハンドルを握り使命のルーティンからうごかぬよぅに仕業しごとする手の甲のつたぅ波打つ血管とともにわずか視界撫ぜられて陳腐チープな昔のゲーム画面のよぅに変ゎらぬ景色を道なりにさぃてぃく。
「あぁ、そぅ思ぅか…
べつに、いつもと同じ朝だ」

空間で寂れた道路に触れる轍のリズムだけが弾んでいる。
紋織しじらのよぅに変ゎらぬロジカルに返事はしなぃ。

朝空の色すら、影濃く濃くなる山林のなか、詰みなおされたジェンガのふもとのよぅに、ばらになってゆく。

「じつはな、ぃと見陶みとれとったんじゃ」

そがなくちゃならんのにな」

「その気持ちを忘れるなよ」
あんたそのいちぃち説教せっきょうくさぃの流行はやんなぃですよ。
それでもなんだかふしぎと泣きたくなったのは、曲がり道で朝日が眼中に迷ぃこんだのと、痛みすらわすれそぅな淡ぃ眠気のせぃだった。

どこへいくのだろぅ。

醒めなぃ寝覚めのなか、気障きざなカクテルみたぃな、夢々心地ゆめゆめごこちまぶたの裏でその泡沫うたかたける。
その次にたどりつぃた灰色のうめつくす世界に、少し後悔した。

ガタン、
愚かはその間抜まぬけの癖に刹那せつなまえまで気遣きづかなぃでしのびよる。

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