邦訳を実装してほしいインディーゲーム|#2
〖2023年5月3日更新〗
Heaven’s Vault(2019)
古代文明の遺物に記された未知の言語を解読しながら進行する、ナラティブなアドベンチャーゲーム。解読パートのメカニズムは下記の記事をご参照願いたい。
遺物に解釈を与えるのは主人公の考古学者アリヤ・エラスラ(=プレイヤー)自身であることが、他の考古学的アプローチを持ったゲームと一線を画す。出来事はタイムライン機能に自動で加筆されるため、歴史の考証やこれまでやってきたことの振り返りがしやすくなっている。また、ゲームの再起動時にはそれまでのストーリーのあらすじをリマインドしてくれる。
アリヤによる語り(音声付き)、発言、選択式の会話ダイアログ(時間制限あり、無回答も1つの選択肢)がひっきりなしに襲い掛かってくるため、非英語話者はおそらく緊張を解くいとまがない。会話ダイアログのテンポは遅くすることができるが、ゲーム内時間を遅くすることはできない(筆者はある場面でこの仕様の影響を受けた)。邦訳が待たれる。
Lifeless Planet(2014)
3Dプラットフォーマー要素のある三人称視点のアドベンチャーゲーム。地球から遠く離れた惑星に不時着した主人公が見たのは、旧ソヴィエト連邦が入植していたと思しき建造物の廃墟だった。
有志による邦訳がある。公式邦訳の実装が待たれる。
Quern - Undying Thoughts(2016)
ミストライクな一人称視点のパズルアドベンチャーゲーム。『ミスト(Myst)』と比較して、やや、遊びやすくなるようにゲーム体験が調整されているように思うが、その精神は確実に受け継いでいるように感じられる。
有志による邦訳がある。公式邦訳の実装が待たれる。
Rainbow Billy: The Curse of the Leviathan(2021)
公式では「大雑把に言えば、生き物収集の2.5次元アドベンチャーパズルプラットフォーマー(a wholesome, creature capture, 2.5D Adventure-Puzzle-Platformer)」と紹介されており、そのとおりにいろんな要素が詰まっているため、このゲームを一言で表現することが難しい。
主人公の少年ビリー(Billy)が、「色」を奪われて個性が呪縛になってしまったモンスターたちと向き合い、「色」を取り戻して世界を航海する。「色」を取り戻したモンスターとは友だちになり、ビリーの旅を手助けしてくれる。
心が明るくなる物語——『アンダーテイル(Undertale)』をプレイ済みであればなおさら——なので、プレイヤー人口が増えるためにも邦訳が待たれる。
Valley(2016)
アクション要素の強い一人称視点のアドベンチャーゲーム。「ライフシード(Lifeseed)」を求め、単身カナディアンロッキーに赴いた主人公。カヌーの転覆から目を覚ましたその場所は、第二次世界大戦に投入するため、秘密裏に研究・開発されていたある兵器の試験場だった。
主人公が着用するリーフスーツ(L.E.A.F. suit)は、着用者に人間離れした脚力を与えるだけでなく、他の生命体の「生死を自在に操る」能力をも与える。さらにリーフスーツは、着用者が死亡すると自動的に周辺のアムリタエネルギー(Amrita energy)を吸収して、死亡寸前の状態に復元させる「量子的死(Quantum Death)」機能を持っている。周辺のアムリタエネルギーを使い果たすと、ようやく死ぬことができる。
アクションは軽快でスピード感があり、ウォーキングシミュレーターというよりランニング(あるいはリーピング)シミュレーターと呼んだ方が正しいかもしれない。それだけでも十分楽しめると思うが、やはりストーリーも頭に入ってくると嬉しいので、邦訳が待たれる。
The Wild Eternal(2017)
ステルス要素のあるナラティブな一人称視点のアドベンチャーゲーム。舞台は17世紀はじめ(early 1600’s)のヒマラヤの秘境。主人公の老婆アナンタ(Ananta)は、輪廻(the cycle of reincarnation)から逃れて安らかに眠るため、狐形の半神「夢の化身(The Avatar of Dreams)」の助言を受けながら、古代都市の遺構が残る霧に覆われたこの地を旅する。
輪廻や苦(suffer)といった用語、釈迦の出生地であるカピラヴァストゥ(Kapilavastu)といった固有名詞など、仏教の世界で物語が進行する。禅の公案のひとつである「父母未生以前本来の面目は何だ(What was your face before your parents were born?)」という台詞も登場するため、日本語で説明を受けても解釈の難しいストーリーが展開されている。より深い理解の第一歩として、やはり邦訳が待たれる。
XING: The Land Beyond(2017)
一人称視点のパズルアドベンチャーゲーム。フルVRサポートのためか、パズルは非言語依存で操作し易しいものが多く、ストーリーを理解していなくても十分に楽しめる。オーディオヴィジュアルは極めて壮麗で、ゲームオーバーもないため、ゆったりと世界に没入できる。
この作品に通底するテーマは死生観。死して霊魂となった主人公(=プレイヤー)が、さまざまな環境で生き、そして死んだ人びとの記憶の世界に入り込み、遺品などのアイテムを収集しながらその人生を追体験していく。
ストーリーは上記のようにオムニバス形式になっており、理解するにはやはり英語能力を問われるため、邦訳が待たれる。
ここで紹介したインディーゲームについて、正直なところ、日本語の導入は困難なのではないかと思っている。ゲームの翻訳にかかるお金は翻訳費だけではなく、実装のための開発費もあるだろう。翻訳費に関しては、筆者も(LSPに勤めていた経験から)それなりに想像できるが、開発費に関してはてんで分からない。2バイト文字を表示するための開発や、そもそも言語設定のないゲームにそれを後から追加するための開発に、どれだけの労力がかかるのだろうか。