ご免侍 二章 月と蝙蝠(十五話/三十話)
あらすじ
銀色の蝙蝠が江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。芸者のお月が一馬に傷を負わせる。
「一馬様、お怪我ですか」
水野琴音が、戻ってきた一馬に驚く、肩からの出血が止まらないのか着物が濡れている。
「お熱がありますね、早く横になりましょう」
かいがいしく琴音が立ち回る。布団を敷いて一馬を寝かせると、薬箱を用意した。傷を見て手当をしていると、祖父の藤原一龍斎が入ってきた。
「傷はどうだ」
「尖った錐に刺されたのでしょうか、傷口は小さいです」
「どれ見せろ」
ぐいっと肩を動かすと一馬はうめいた。神経が痛み目まいすら感じる。
「かなり深いな、酒で清めるか」
どこからか酒を用意すると傷口にそそぐ、一馬は痛みと熱で目をつむったまま我慢をしている。
「これくらいで騒ぐな、深く斬られるとしばらく動けない、刺された程度なら平気じゃ」
一龍斎は、木綿布でぐるぐると肩をきつく縛る。傷口はじんわりと血がにじむが、徐々に出血が止まりはじめていた。
「数日は、このままじゃな、厠へ行くときに助けてやれ。わしは杖を用意する」
「わかりました、お食事を用意します、湯漬けをつくります」
出て行く琴音を見まもりながら、一馬を見つめる祖父は頭を横にふりながら、にやりと笑う。
「まぁ経験じゃ、経験で成長する」
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