SS 新しい体【トラネキサム酸笑顔】 #毎週ショートショートnoteの応募用 (410字くらい)
一枚のパンフレットを見る。
「トラネキサム酸笑顔で一杯」
声を出してキャッチコピーを読む。ふふふと笑ってしまった。当時の若い私は、肌もすべすべで真っ白に見える。
「また見てるのか?」
「だって、お別れだから……」
「まだ白いよ」
確かに同年齢の方よりも白いかもしれないが、もう歳だ。手の皺を指でなぞる。
「そろそろだ」
「判ってますって」
夫はせかすが気乗りしない。私は体を捨てるから……ベッドに寝かされて、目をつむる。自分で自分の手を握る。
「はじめます」
遠くで技術者がなにかをつぶやいた、それっきりだ。
xxx
起き上がり自分の手を見る、真っ白な腕は機械の腕。夫が手鏡を渡してくれた、顔をみるとポスターと同じ顔、丸いスクリーンに顔が映っている。
「新しい体だ、千年は生きられる」
「……そうね、化粧水はいらないわね」
「そうでもないぞ、機械の肌に塗るトラネキサム酸があるよ」
私は、ふふふとまた笑う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?