SS 夜光おみくじ #毎週ショートショートnoteの応募用
拍子木が、カーンカーンと鳴ると、人が集まってくる。深夜の公園で紙芝居が始まる。
「大山鳴動するが、ネズミも居ない。剣豪の宮本武蔵は、九尾の狐を退治しにきた宮廷に、人の気配が無いことを不審に感じる!」
おなじみの狐退治の物語が終わると、客は紙芝居屋から、何かを買い求めいた。
「何をしているんだ……」
うっすらと紙芝居の記憶はあるが、こんな夜中に客を呼ぶわけもない。終電間際で帰って来て、コンビニに立ち寄って深夜の公園を横切っていると、彼らを見つけた。
客が居なくなり、自転車の上の道具を片付けている老人に話を聞く。
「めずらしいですね」
「ん……? ああ……もうだれもしないからね」
「みんな何を買っていったんですか?」
「これだよ」
青白く縦に折りたたまれた長方形の紙片を見せる。
「夜光おみくじだ……」
見ればうっすらと文字が読めそうだ。
「私が買ってもいいですか」
「いいよ、百円だ」
小銭を出して家に戻る。部屋の明るい蛍光灯の下では、真っ白な紙だ。電気を消して、紙を開いて見ると
「吉:紙芝居で良縁あり」
手の込んだ宣伝だが面白い。それからは深夜の公園に行くと、成人した男女が熱心に紙芝居を見て、おみくじを買う。
「いつも顔を見ますね」
「くせになりました」
古い講壇風の話は、話術が上手で引き込まれた。彼女とそこで出会うと、意気投合して彼女の部屋で一夜を過ごすようになる。
「紙芝居にいきましょう」
「いやもういいよ」
彼女と過ごす方が楽しい、でも彼女は無理に公園に連れて行かれる。
(これで最後かな……)
彼女と結婚しよう、最後の夜光おみくじを買うと
「……何も書かれてない」
どこかで、コーンコーンと動物が鳴いている、深夜の公園でコンビニの袋をぶらさげたサラリーマンが一人。
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