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SS 新鮮な恨み #爪毛の挑戦

山奥の社殿に江戸初期の巻物があると聞いて、見せて貰う事にする。ヒグラシが鳴く山に入ると蝉の声はすぐに認識できなくなる。脳の方でカットしてくれる。ノイズカットの仕組みだと言う。

「その巻物に妖怪が描いてあるのね?」
大学で民俗学の研究をしている彼は不思議な巻物が実家にあると教えてくれた。
「無名の絵師で、漫画の絵みたいな妖怪だよ」
神社に妖怪の絵は珍しい。お寺ならよくある。苔むした山を歩くと、山腹の中程に神社が見えた。

「敬一じゃないか、めずらしいな」
神主と言っても普段は野良仕事の私服だ。温和そうなおじいさんは私たちを迎えてくれた。少し休んでから、かなり古い木箱を持ってくる。
「これに入っている、自由に見ていいよ」
江戸初期からの貴重なモノが、かなり適当な扱いで驚く。おじいさんは、巻物の由来を話す。
「もう四百年以上前だな 落ち武者がこの村に逃げ込んできたんだ、村人は最初は恐れていたが、傷ついた彼らを殺して持ち物を奪った、でも一人だけ生き残って村に住み着いたそうだ」

私は不思議に感じた。侍が村人に負ける?でも一人だけ助かる?神主のおじいさんは
「実はワシの祖先でな、八面六臂に活躍してまるで刀が八本あるように見えたそうじゃ」
誇らしげに言うと席を立つ。

敬一は木箱の蓋を開けて巻物をゆっくりと広げた。
最初はサルだ
クモ、
人、
ヘビ、
キツネ
妖怪なのだろうか?おどけた表情の絵で私たちを見ている。
最後は …… 目だ ………

「判じ物かな?」
私は判らない、「どんな意味?」
敬一は、「今だとクイズに近いかな、なぞなぞだ、意味を隠して真実を教えない。知ると災いになる」

写真に撮ると巻物をしまう。
「最後の目は何かしら?」
「さぁ?なんだろ?」

おじいさんが戻ってくると
「なんだもう見たのか?最後の部分は、やぶれていただろう?祖先の神主が、破いて捨ててしまったそうだ」

私と敬一が顔を見合わせる、お互いの目を見ると、そこは夜の神社だ。村人が大勢居る。一人の武将が立っている。彼の足下には、五人の侍が縛られていた。

「戦に負けたのは、おぬしらのせいだ」
縛られた侍は怨嗟の声をあげて罵る。
「行く代までも呪ってやる」
武将は五人の全員の首を切り落とす、首はそのまま敵方に引き渡す。報酬をもらった村人は武将をかくまった。その後は延々と夢のような映像を見る事になる、祟りが始まる。武将がまっさきに標的になる。

怪異を恐れた武将は近くの寺で教えてもらい、写経や仏画を描く事で供養しようとする。そして祟りを封じ込める妖怪の絵も描いた。戯れの絵は殺した武士達の名字から連想した。

だが祟りは続き最後に怨霊を見まいとして目をくりぬいて死んでしまう。彼はあの絵を描いている最中に目をつぶしている。

気がつくと私たちは畳の上で気絶をしたのか、おじいさんに寝かされていた。

「暑いからの しばらく休んでから帰りな」
おじいさんは巻物の最後を見ていない?いや私は違うと思う。祖先は、最後の目の絵を認識できない。ノイズカットするように見えなくしている。だから彼らはもう呪われる事は無い。

でも私たちは?新鮮な恨みを私は受け継いだ?
敬一から電話が来る
「変なんだよ、部屋の隅に落ち武者の幽霊が …… 」

終わり

すいません、我慢できずに書きました、ゆるしてください。

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