死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(07/60)
第二章 不穏な噂
第一話 発端
あらすじ
児童養護施設から親戚に引き取られた櫻井彩音は、榊原家の長男の死亡事件の発見者になる。
いつものように玄関のドアを開けると子供が倒れていた。
「どうしたの? 」
声をかけながら、あわてて中に入ると長男の光男が倒れている。玄関先の三和土に、頭を下にして体は玄関ホールに残っていた。これから外に遊びに行こうとして、頭から落ちたように見える。
額には傷があり傷から少しだけ血が滲んでいた。体を抱えて玄関ホールに横たえる。失神しているように見える、体をゆらしても返事をしない。頭をぶつけているなら脳しんとうの場合もある、気絶していると感じた。
「朋子さん」
大声で呼びながらキッチンを探すが誰も居ない。救急車を呼ぶべきなのか迷う、私はパニック状態になりかけていた。
「何しているんだい! 」
八代が怒鳴る、目を怒らして私をにらむ、私は反射的に座り込んでしまう。心臓の鼓動が激しくなると、危険な状態なのが判る。恐怖で体が固まると同時に黒い怒りの感情がにじむ。私は何も悪くない、私は何もしていない、私は……
ぐいっと肩を引っ張られると手が出ていた。
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「それであなたが見た時に、光男君は玄関で倒れていたのね? 」
刑事が応接室で私から話を聞く。殺人課の加藤翔子刑事が、私からの証言をメモする。加藤は三十近いショートヘアのかわいらしい女性に見えるが、目が恐ろしい。直視できない。私は祖母を殴り倒すと玄関を出て庭で隠れていた。記憶が曖昧で詳しく話せない。明らかに疑っているのは判るが、私は嘘でごまかせるような状態ではなかった。
「もういい、科学班が来た。」
同じく殺人課の小林俊介が私を見る、彼は婦人警官を呼び寄せると私をパトカーの中で待機させるように指示を出す。ぼさぼさしたヘアスタイルにやる気の無さそうな四十歳位の刑事だった。小林の目はやさしい。私に同情しているようにも見えるが本心はわからない。婦人警官と後部座席に座り、ぼんやりと外を見る、思考は停止していた。
しばらくすると榊原昭彦が戻って来た。激しく泣いている妻の朋子が、パトカーに乗る私を指差しながら怒鳴っていた。
「あの女が……」
「光男を殴った……」
よく聞こえないが私が光男を殴ったと証言しているようだ。転んだだけに思えるが重症だったのかな? と心配になる。それよりも祖母の八代が、どうなったのか心配になる。老人を殴っている。骨折しただろうか?
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