SF 黒猫
暗い部屋に閉じ込められて死を待つ。黒い猫がいつもそばいにいる。
「私が悪いの」
「悪くないよ」
私は夫に隠れて浮気した。夫を裏切ったといわれるが夫だって若い女と浮気をしていた。暗黙の了解だ、私も浮気を許されたと思う。
「私も愛が欲しかった」
「愛は大事だね」
猫は私の味方かもしれない、私を許してくれる。夫は私の浮気を知ると激しい暴力で何時間も殴る。
「私は怖かったの」
「君は自分を守っただけさ」
私は逃げた、地下室に逃げた。あの壁は崩れていた。だから追ってきた彼から隠れるために中に入った。
「暗くて怖かったわ」
「そうだね、君は怖かった」
壁の中に釘抜きを見つけた。それを手にもって隠れた穴から飛びだして殴った。頭を何回か殴ったら……
「重くて大変だった」
「彼を隠したんだね」
丁寧に壁を修復したわ、死んでいると思ったけど生きていた。隙間から「助けてくれ」って、笑ったわ。とても笑った、楽しい毎日だった。
「たまにパンもあげたわ」
「カビだらけのパンだね」
壁の中が彼の汚物でいっぱいになるまで生きていた。人間ってどんな状態でも長生きできる。
「私は悪いのかしら」
「悪くないさ」
黒猫が鳴く、どこか別の世界で壁に閉じ込められて死んだ女性を慰める。
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