SS 壁に少々らっきょう #毎週ショートショートnoteの応募用

　壁に少々らっきょうがついている。

「おい、壁を掃除しとけよ」

　妻が不審そうに自分の顔を見ている。不機嫌になる前に、そそくさとマンションを出た。子供がいたずらでくっつけたのかな？　程度にしか感じない、仕事でいそがしく忘れてしまう。

「お父さん」
「ただいま」
　帰ってくると娘が抱きついてくる。もう少し年齢が上がれば近寄らなくなる。

「お父さん、キッチンの壁が変だよ」
「どうした」
「壁がなんでも食べちゃうの」
「らっきょうをつけたのはお前か」

　くすくすと笑う娘は、手を引っ張ってキッチンの壁を見せる。夕飯の支度が出来ていた。

「顔をかいたよ」

　白い壁に丸い顔がある。口が丸く開いている。

「ほら、こうやって食べさせるの」

　娘が壁に向かって夕飯を食べさせる。夕飯は、すっと壁に消えた。その瞬間に足が重く感じる、本物の恐怖だ。身動きできない恐ろしさで娘を抱きしめる。

「離れて」
「どうしたの？」

　妻が壁に近寄ると同時に吸い込まれて消えた。引っ張られる感じが強くなると娘を抱きかかえて玄関にダッシュする。背後で皿が割れる音や金属が破壊される轟音が響く。

　玄関を出た瞬間に部屋が消滅した。娘を抱いたまま動けない……

xxx

　ＬＨＣ（大型ハドロン衝突型加速器）で奇妙な現象が起きていた。実験を中止してメンテが始まる。

「加速器内で異物ありますね、金属の指輪でしょうか？」
「どれどれ、これは……結婚指輪かな」

DALL-E3