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SF 帰還

 そのときは飼えなかった。まだ子供だったので大人の言うことが絶対だ。だからその子を捨てた……

「拾ったのに捨てたの?」
「飼えなかったから仕方ない」
「最低ね」
「……」

 言い訳もできない。黒い動物は犬か猫に見えるが耳が人のように横についていた。だから猿の子だと思う。

 恋人とベッドの中でひそひそと昔話をする。退屈しのぎでしかなかったが徐々に思いだした。

「名前は、ヒューイだったかな……」

 口の中でひっそりと呼んでみた。

xxx

恋人が死んだときは悲しみよりも彼女の状態を見て狂いそうになる。プレスでツブされたような体が、彼女のベッドで発見された。

「アリバイは?」
「自室で寝てました……」

 警察は自分が殺したと疑っていたが、こんな状態でベッドに戻す意味もない。殺害方法もわからないまま捜査は難航している。

 確証があったわけではない、ヒューイを捨てた場所へ行く。さびれた高台から港が見える。ヒューイが船に乗って生まれた故郷へ帰るわけもないが、ここで捨てれば戻ると信じていた。

「ヒューイ……」

 そっとつぶやくと現れた、毛むくじゃらの巨大な体は古代の恐竜のように背が高い。眼を見ると知性を感じる、その眼から懐かしさと愛情を感じた。

「オカエリ……ナサイ……」

 彼女は僕を待っていてくれた、彼女は僕の恋人に嫉妬して握り潰しただけだ。巨大な手が僕をつかむと……そっと丸めて口の中に入れる。

#SF
#シュール


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