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SS 余命200年。#ストーリーの種

 余命200年。一部の特権者だけが享受きょうじゅできた。一般人は50年前後で落ち着いている。俺は25歳で彼女は125歳。彼女が俺を選んだ理由は、昔の夫に似ているからだ。

「俺の親戚かなぁ? 」
「違うと思う、似てるのは雰囲気だけよ」

 特権者は芸術家や研究者が中心で、財産や不動産は無関係だ、金持ちが特権者になるわけではない。国が認めた人間国宝のようなものだ。特殊な感性を持つ人たちは0から1を作り出せる。一般人は出来ないから、特権者が作り上げたものを楽しむだけの人生になる。

「俺もあと25年かぁ、本を読んで映画見てゲームして終わりかな」

 幸福追求法こうふくついきゅうほうが制定された現代は、人は働く必要がないが他人が生み出したコンテンツを消費する義務がある。決められた時間で消化してレポートを書いて意見交換する。その過程で、芸術作品や娯楽作品の価値が上がり、批評や批判を受けて洗練される。

 俺はルーズなのか、ついつい作品を消化しきれない時がある。ノルマを消化できないと最終的には時間で拘束される、コンテンツ牢獄に入り、囚人として作品を見せられる。それも拒否すると幸福追求法違反になり死刑だ。実際はそんな奴は少数で、いくらでもさぼれるし、テンプレの感想で良い。

「私の感性も鈍化している……、読者離れが激しいわ」
 百年も同じ作品を作るから飽きるだろう、小説や漫画だとネタ切れしてしまう。特権者ですら、人気が落ちると最終的には安楽死に回される。

「もっとも100年以上も生きると、いつ死んでも気にならないの」
 美しい彼女は俺に抱きつく、老化が防止されているので若いままの彼女は今でも子供が産める体を維持していた。特権者から特権者が生まれるか? 長年の研究で否定された。才能は後天的な教育と脳の発達で偶然できあがるガチャみたいなものだ。だからこそ一般人から特権者が生まれて社会に娯楽や研究を与えられる。

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「だめ、連載が切られた。私の余命が無くなったから……安楽死ね」
 薄く笑う彼女は泣いていた。特権者でも死は恐ろしい。愛する人が死ぬ。俺は気が狂いそうになる。社会システムはすでに完成されている、人間が変更できるような仕組みにはなっていない、すべてがマザーコンピュータの仕業だ。

「君を助けたい、俺の余命を……」
「無理よ、絶対評価があるから人気が落ちれば死ぬだけ」

 俺は閉鎖形のネットを探るとテロ組織の存在を確認した、彼女を助けるために、俺は彼らとコンタクトする。

「マンガや小説は、ダミー評価であげられるわ、新作を出して」
 なるべく珍しいジャンルを選び、彼女が作品を作る。しばらくすると評価がうなぎ登りに上がり始めた。彼女は余命を伸ばす事ができた。

「私たちはマザーコンピュータで管理された社会を破壊したい、手伝ってね」
 テロ組織の女幹部に頼まれて、俺は今も偽の評価を書き続ける、これが俺の天職だと気がつく、人工知能をだましすべてのクリエイターに命を与えるんだ!

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「うーん、今時マザーコンピュータへの反乱は無いんじゃないの? 」
 SFは売れない、手垢てあかにまみれた原作では、俺は長生き出来ない。退屈そうな担当から原稿を突き返されて、俺はしょんぼりと出版社を後にした。電柱のそばで立っていた彼女が走ってくる。

「またダメだった? いいよ私が喫茶店で働くから」
 彼女と腕を組みながら、俺が売れる未来はあるのかなとつぶやく。昭和三十年の夏は暑かった。


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