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ご免侍 二章 月と蝙蝠(五話/三十話)

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あらすじ 
銀色の蝙蝠こうもりが江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。

「もし、どうかしましたか」

 背後から女の声がする。油断なく体を回すと二十歳くらいの芸者が立っていた。小顔で幼く見える女は、黒に金の刺繍ししゅうが入った豪華ごうかな着物で、どこかのお座敷の帰りにも見える。

蝙蝠こうもりが居た」
蝙蝠こうもりなんぞ、どこにでも飛んでますよ」
「それが銀色の蝙蝠こうもりで」
「そんな蝙蝠こうもりなんて見たことないわね」

 扇子せんすを取り出すと口元を隠して笑う。それがいやみに見えないのは、誘うような目のせいだ。男を魅了みりょうするように怪しい力を持っている。

(見る限りは刀も持っていない)

 この芸者が犯人か、とも考えたが刀を隠し持てるわけもない。

「ねえ、お前さん。男前だね、飲んでいかないかい」
「それは、ねがってもない」

 頭をぺこぺこ下げると、先に立って歩く芸者の後についていく。よくある酒に水をまぜて飲ませる飲み屋かもしれない。枕芸者まくらげいしゃで、客を探していたのかもしれない。

(どちらにしろ、敵のふところに飛び込んでみよう)

 一馬かずまは用心しながらも、どこかで期待をしていた。男のスケベな心もある。

(こんな良い女を抱ける)

 と思うだけで血がのぼる。まだ若い一馬は人並みに女に興味があるし、抱きたいとも思っている。でもなぜか琴音ことねには、その気にならないのだ。

(不思議だ、やはり気品のせいかな)

 どこか自分とは別の世界の女にも感じていた。触れてはいけない女、そんな風に感じていた。

#ご免侍
#時代劇
#月と蝙蝠


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