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死と記憶の無い少女、黒い家の惨劇(11/60)

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第二章 不穏な噂
第五話 過去の話

あらすじ
 児童養護施設じどうようごしせつから親戚に引き取られた櫻井彩音さくらいあやねは、榊原さかきばら家の長男の死亡事件の発見者になる。


「お母さんも驚いていたわ」
 伊藤愛美いとうあいみは、私鉄のホームで電車を待ちながらぽつりぽつりと話す。黒い家の土地には、数軒の家が建っていた。そこに悪質な金貸しが言葉たくみに隣家の住人を借金の保証人にして、だまして土地ごと取り上げていた。

「それからね、黒い家とか呼ばれてるの」

 当の金貸し本人は長生きしそうだったのに突然死亡すると愛人の八代やよが、家と財産を独り占めにする。八代やよは金貸しの子を産み、朋子ともこと名付ける。娘が大きく育つと一人の青年に恋する。それが昭彦あきひこだった。

昭彦あきひこおじさんは、苦学生でお金が無かったみたいね」

 昭彦あきひこは、授業料と引き換えに朋子ともこと結婚して開業医になれるが、婿養子の昭彦あきひこは妻にも妻の母にも頭があがらない。

「みんな、お母さんの受け売りよ」
 伊藤照子いとうてるこは、一部始終を知っていた、真向かいの家の住人で知っていて当然に思える。

 その日の学校は最高に楽しい授業に感じる。下校時の憂鬱ゆううつさは筆舌ひつぜつに尽くしがたいが、戻って葬式の手伝いや佳奈子かなこの世話をしなくてはいけない。

 足取りも重く榊原さかきばらに近づくと右隣の家から、一人の男が手招きをしている。ハゲ上がった五十代の男性は笑っていた。無視するわけにもいかない、私は男性に近づく。

八代やよをぶん殴ったのか? 」
 ニコニコと笑う彼は川口勝かわぐちまさると名乗る。私が祖母を殴った噂が広まっていた、彼に礼を言われた。彼は八代やよを嫌っている、彼の親も保証人になり借金を肩代わりして土地の一部を取り上げられていた。

「あの糞ババアは最低最悪だったよ」
 数分間は立ち話でグチを聞かされた。周囲の家からかなり憎まれているのは理解できる。やっと解放されて家に戻る。

「ただいま」
「おかえりなさい」
 佳奈子かなこが起き上がって一階に降りていた。左の手首には包帯が巻かれている。美しい彼女は、包帯ですら素敵すてきなアクセントになり美貌を引き立てている。

「大丈夫なんですか? 」
「平気よ、昨日はごめんなさい、なんか間違って手首を切ったみたい」
 佳奈子かなこの傷は間違って切ったとは思えないが、私は黙っていた。そこに母親の朋子ともこが顔を見せる、憔悴しょうすいしていたが初めて見たときの精力的な主婦に感じる。私を見るなり顔を歪めた。

「のんきに学校で遊んでたのね」
 害虫を見るような目でにらみつけるとキッチンへ入る。私はどうやってこの家から逃げられるのか考えなくてはいけない……


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