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【#第二回絵から小説】ネットアイドル

「みなさん、おはよー」
その少女は、ネット界隈で有名なゲーム配信者だ。
ボブヘアで黒髪の少女は、男の子たちを夢中にさせた。
「新しく発売されたゲームをプレイしますね」
誰にでも愛想がよくて、ちょっと大人の会話も許容した。
ゲームが少し下手でも、根気強くプレイをして
上達する。
頑張りを見せる事で、プレイを見ているリスナーが
自分が上達したかのように錯覚をする。
リスナーのコメントにも柔軟に対応するが
リスナー側の意見に引っ張られると危険だ。
そのため
失言には注意をしていた。
政治の話や
宗教の話はしてはいけない。
しかし失言がでるのは仕方が無い。
失言があれば、批判意見が多くなる
批判を専門にするアンチも増える。
アンチは彼女の切り抜きを動画にする。
動画で失言をクローズアップさせる事で、再生数を稼いだ。
でも彼女は気にしていない。
その動画を作成しているのが、彼女だからだ
自分で自分の失言を批判する事で、何が問題なのかを共有した。
リスナー達が何を求めているのかを理解した。
だがある日、大きな失言をしてしまう。
もちろん批判動画は作成をしたが
複数のアンチを生み出す事になる。
炎上が発生する
メディアも取り上げる
週刊誌の小さな記事にもなる
影響が計り知れない。
焦った彼女は謝罪動画を出した
「みなさんの心を傷つけました、しばらくは配信を停止します」
と同時に、かなり強く批判をしたアンチ動画もだす。
「このネットアイドルは、制裁を受けるべきだ」
なるべく扇情的にしてみた、ガス抜きを考えていた。
アンチは、熱狂して様々な人達が議論をする。
擁護と批判で盛り上がるが、いつしか下火になる。
人間は忘れやすいのだ。
新しい発言がないと、アンチ動画も似たような事を
指摘するだけになる、そうなると飽きられる。
誰もが別の新しいニュースを議論するようになる。
「そろそろ次の手を考えましょう」
活動再開を行うと同時に、自分の作ったアンチ動画に対して
裁判を行うと宣言をする。
関連したアンチ動画も、裁判を恐れて自主的に削除された。
唯一残ったのは、彼女が作成したチャンネルだけとなり
あとは鎮火を見守ればいい。
彼女は動画の配信や放送のためにマンションを借りていた。
仕事場として使うので、家族などに邪魔されない
環境が必要なためである。
「これで、しばらくおとなしくすれば人気も回復するわ」
この日は、新しいゲームソフトのインストールや
調整に時間がかかり、作業が終わる頃には深夜になる
後は歩いて実家に戻る事にした
放送に使うマンションの一室から出ると、髪型を隠して
エレベータに向かい外に出た。
街灯がまばらになる路上で、一人の青年が立っている
「お前がアンチ動画の犯人か」
彼は、重いハンマーをふりかぶった。
彼女は来た道を走りながら、携帯を取ろうとバッグに手を入れたとき
後頭部に強い衝撃を感じると意識がなくなる。
警察署の取調室で、青年はうれしそうに自白をしている。
ベテラン刑事が
「なぜ襲った」
青年は饒舌に
「たった一つの失言で、何ヶ月も批判をする動画を作成し続けるとか
 異常者とは思いませんか」
刑事はメモを取りながら
「君の感想はいいから、殺意があったのか教えてくれ」
すこしどもりながら弁解をする
「脅すつもりでした、殺すまでは考えていません」
メモから目を上げずに
「凶器のハンマーは、かなりの重さがある、当たれば危険なのは判るね」
少し泣きそうな青年は
「逃げたので反射的に追いかけただけです」
「ふりあげたハンマーが重かったので、手がしびれました」
刑事は席を外して廊下に出る。
廊下に居た新米刑事が報告をする。
「動画配信のパスワードが簡単でログインできたようです、
 中の公開されていない動画や写真から
 マンションまでつきとめて人の出入りを監視していました」
「計画的な犯行ですね」
ベテラン刑事は
「自殺防止用の独房を用意しとけ、被害者を知れば精神が持たない」
そう言うと、廊下の窓からぼんやりと外を見ている。

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