ご免侍 一章 赤地蔵(三話/三十話)
番所で待っていると、まだ二十代の若い同心が入ってくる。眼はキツネのように細く、開いているのか閉じているのかわからない。とがった顔なので狐と裏で呼ばれていた。
「一馬、また切ったのか? 」
伊藤伝八は同心として藤原一馬と懇意にしている。懇意というか腐れ縁だ。
「幼い子の、かどわかしだ、だから切ったよ」
まだ血の匂いがするのか自分で鼻をひくつかせる。着衣に黒いシミが見えた。藤原一馬は、めんどくさそうに使った脇差しの手入れをしている。伊藤伝八は番所の畳の上に座ると下人に茶を用意させる。
「最近はかどわかしが増えている、岡場所にでも売るつもりだ」
「あんな幼い子を客を取らせるのか?」
一馬は、あきれたように口をとがらせた。同心の伝八は茶をすすりながら少し笑っている。
「まずは見習いだよ、禿として働かせる」
幼い娘は、雑用させながら遊郭の雰囲気になじませた。大きくなれば客を取らせる。
同心の伝八は茶を飲み終わると番所の死体をあらためる。切ったのは一人だけで後は逃げてしまった。幼い娘は近所の長屋の子供で、木戸番の眼を盗んで外に出た。
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