SS 港のヨーコ【#青ブラ文学部参加作品】
――港のヨーコ? そんな名前で呼ばれていた髪の長い女だって? そんな女は一杯いるからね……
公園のベンチで人が流れるのを見まもる。ヨーコが消えたのは昔だ。冷えた体で布団に入ると、やさしく抱きしめてくれた。
(あんな、いい女はもう二度と……)
薄汚れたベンチで姿勢を変える、彼女の手や体が好きだった。彼女の腹に頭をつけて丸くなって眠れた。俺から離れたのは、俺とは無関係な事だと思う。最後まで俺を愛おしく触れてくれた。
(未練たらしいな……)
別の女に会っても、相性が悪いのか邪険にされる事もある。結局は、俺の姿形が好きなだけで、愛は無かった、好奇心だけで俺に触れていた。
(もう冬か……)
粉雪が舞うベンチに一人で座っていると顔見知りの婆さんが、ベンチに近づく。
「うーちゃんじゃないの、寒いのに」
黙っている俺に、カーディガンをかけてくれる。ヨーコが働いていたバーのママだ。もうママって歳じゃないないくらいに皺くちゃだ。俺とヨーコが一緒にいるのを、まだ覚えているのか、たまにバーに連れて行かれて中で飯をもらう事もある。
ママはひとしきり俺に話しかけると、カーディガンは、あげるよと言ってバーに戻る。ヨーコは、その店で、客の取り合いでリンチされたと聞いた。俺も探したが、行方知れずのままだ。
粉雪が舞う、俺はベンチに座ったまま動かない。
(もう、いいかな……)
ヨーコに会いたい。
xxx
「あらあら、ごめんなさいね、連れて帰れば良かったね……」
都心部は、珍しく大雪になるとベンチを雪で埋めた。黒い猫が、雪の布団で、冷たく固く凍っている。ママは泣きながら抱きしめてくれた。
すいません、自分のは自動的に悲劇になるのは仕様です。
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