SS 木のふりをするのも、もう限界だった。#ストーリーの種
木のふりをするのも、もう限界だった。お師匠様から習った木遁の術は隠れるための術で木になりきる。動物の擬死と同じで死んだふりだ。
「めっけ、太郎丸が居たよ! 」
でっかい声で椿が叫ぶ。おかっぱ頭の眼のくりくりした女の子が俺を指さす。
「まだまだじゃな、太郎丸、椿も修行を続けなさい」
仙人風の老人が杖で体を支えながらよろよろと立っている。お師匠様も歳で弟子を取るのが難しい、里の幼い子供達を教える事しかできない。
「なんで判ったんだ? 」
「だって太郎丸は、立っているだけで気配が判るのよ」
気配をまったく消せない。がっかりした俺は頭を垂れる。椿がそんな俺を優しく慰めてくれた。
そんなゆるい里の暮らしは、長く続かない。俺は成長すると戦に狩り出された。忍者として働く。火遁、土遁、水遁の術を駆使して活躍できるが、木遁の術だけが苦手なのか、絶対に見つかる。
「お前は忍者なのに、忍として駄目だな」
他の忍者仲間から笑われる。どうしても目立つ、そして矢面に立つ羽目になるが生き延びてきた。術の腕に自信を持てるが体は傷だらけだ。城攻めが終わると俺は里に戻る。
「顔がすごわね、傷だらけ」
椿は美しい少女に育っていた、師匠の具合が悪いらしい。俺は椿と見舞いに行く、暗い藁葺き屋根の小屋で息が苦しそうな師匠を見ると心が痛む。
「お師匠様、ご気分は?」
「お前に秘技を渡す……反魂の術だ、木遁の究極奥義だ……」
俺に巻物を渡すと眠るように逝く、椿が涙を流して悲しんでいる。俺は巻物を懐に入れて里の長の所まで走った。師匠を埋葬し墓に握り飯を供えた。俺は奥義の事を何も教えて貰えないままで困惑していた。読めば判るのだろうか?
「大変! 襲撃、敵兵が責めてきたわ」
椿が叫ぶ、その後方に槍持と弓を構えた侍がいる、弓が引かれると椿の背中に何本も矢が立った。倒れた幼なじみに俺は叫ぶ。
「椿! 」
俺は怒号と共に巻物をひもとく、反魂の術ならば生き返るかもしれない、しかし巻物は白紙で何も書かれてない。
「馬鹿な……」
奥義は判らない、口伝だったのかもしれない、巻物は象徴だ。師匠から教えられていないと無いも同然だ。
「畜生! 畜生! 」
刀を抜くと生命力があふれる、俺の特技だ、反木遁の術、敵の全ての注目を浴びる。矢が放たれて俺の体中に刺さる。刺さる矢に激痛が走る。だが……死なない。抜刀して敵に突っ込むと、なで切りにした。
「椿すまん……」
倒れて居る椿の矢を抜いて、抱き上げると息を吹き返す。
「太郎丸? 術を使ったの? 」
俺の気に当たったのか椿は命を取り留めた、俺の力は命を生み出し生命力を活性化させる活死の術だった、師匠は俺の生命力から術を引き出す事に成功していた。俺は、もう木遁の術は使えない、生命力を常に発生させる不死の忍者として活躍する。
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