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SS&SF 訪れる息子 Jelly Beansシリーズ

※表紙はふくやまけいこさんの漫画です、設定を拝借しています。

設定 次話

トムは自分の名前がキライだ、ありきたりで個性が無い。もう少しましな名前は無いだろうか?チャールスとかミシェルとかありそうなものなのに、トムだ。母親を呪った時期もある。

無人ロボットバスに乗り郊外で閑静な住宅地と言うよりは田舎だろう。農地が広がる場所に、その家はある。「住所は間違い無いか」腕に巻いた通信リングを、ドアのシステムに認識をさせると開く。

中に入ると「アメリアさん居ますか」と声をかけた。母親が居る筈だが、出かけているのかもしれない。シーンとした玄関を抜けると台所を見つけた。鞄を床に降ろすと、キッチンの椅子に座る。

幼い頃は、集団生活で育った。複数の友達は人工子宮で作成された子供達だ。この時代は、人口の急激な落ち込みにより政府はロボットによる国民増強政策を行う。遺伝子を改変したデザインベイビーも実験的に開始されているが、どのような弊害があるか判らない。

僕の場合は、無作為に選ばれた精子と卵子を利用して国民を増やすランダム実験の産物だ。だから母親や父親という存在が判らない。

今回は肉親と暮らす事の反応をレポートとして提出予定だ。十歳になった僕は、今回が初めての体験になる。

「あんた誰?」キッチンに半裸の女性は入ってきた。乳房は丸出しで大きな胸が丸見えだ。「こんにちわ、トムと言います」彼女は自分の状態を把握するまでに数秒は必要だった。あわててキッチンを飛び出す。

僕は立ち上がると「政府からの通知は来てませんでしたか?」個人用の端末に政府からの通知ビデオメールが来ている筈だが、未読だったのだろうか?「あんた誰?」服を着た彼女は、ヒステリー状態で怒りの目を向ける。

「息子のトムです、しばらくは同居します」口を大きく開けている彼女は呆然としながらキッチンに入ると冷蔵庫からジュースを取り出して飲み始めた。「……あんた誰……」三回目だ。「息子です」簡潔に説明をする。

リビングの長椅子で彼女は政府から贈られているビデオメールを確認していた。かなり未読がたまっているらしく、催促が何通も着信していた。「盲点だった、卵子提供なんて十年前よ」「僕もその頃に生まれました」彼女は僕を見ながら「アメリアよ、よろしく」握手を求める。手を握り返すと彼女の手の感触で僕は驚いた。とても心が安らぐのだ、レポートに書こう。

「それで?何日居るの?」「一年位だと思います」母親のアメリアは絶望的な顔をした。「…判ったわ、とにかく部屋を決めましょう」僕は二階にある客室に案内される。道路が見える良い部屋だ。「ここは私はコードを組む時に利用しているの、だから掃除もしてある、ここで寝泊まりして」僕はベットや机があるこの部屋が好きになる。

「トム!」アメリアが呼んでいる、リビングに行くとアメリアが怒っているようだ。「あんた設定いじったでしょ?」彼女の端末に僕の認証処理を入れていた、レポート提出のためだ。「はい、学校に連絡するためです」彼女は嫌な顔をしながら、「バージョンアップしたでしょ?」

確かにやたらに古いので更新処理をした。「問題でしたか?」「私の古いアプリケーションが動かなくなるのよ」どうやら迷惑をかけたらしい。「申し訳ありません」謝ると僕は彼女の端末をリロードして元に戻す。「え?どうやったの?」「戻せるようにバックアップしています」アメリアは僕の顔を見ながら何か思いついたのだろう。「ちょっと手伝って」

僕は彼女の部屋にある仮想ダイブ室に入る。ここは一種のゲーム世界への入り口だ。ただ今の世界はゲームがリアルと直結している。ゲームをする事でスコアを貯めて、生活を維持させる。なにしろOSが複雑化しているため、常に不具合が出るのだ。その不具合を見つけて報告して修正をする。それが今の世界の仕事になる。

「私と一緒に不具合を見つけるのよ」僕は母親のアメリアと一緒に、この世界でデバッグする事になる。

続く


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