ご免侍 二章 月と蝙蝠(十八話/三十話)
あらすじ
銀色の蝙蝠が江戸の町にあらわれる。岡っ引き達が襲われていた。芸者のお月が一馬に傷を負わせる。
「また襲われた」
「岡っ引きか」
「今度は同心だ」
一馬は布団の上で上半身を起こして、同心の伊藤伝八の話を聞いている。同心が十手を盗まれるのは、お叱りを受ける上に改易の可能性もある。
「その同心は切腹じゃなくて良かったな」
「でも役職が無くなると実入りは減る」
同心は付け届けといわれる副業のような実入りがある。伊藤伝八の妻は元は商家の生まれで、どこぞの武家に養子として入ってから、婚姻している。家柄が大事な時代なので、抜け道を作って結婚した。
伊藤伝八は、妻の実家からの支援もあるので、比較的に裕福だ。渋い顔をしながらつぶやく。
「俺も狙われるとまずい」
「しかし、お月はお前を見て襲わなかった……」
「お月が犯人なのか」
そう言われると微妙だ。一馬は銀色の蝙蝠を見た後で、お月が現れた。お月が手妻使いならば、背後から声をかけるだろうか。
「わからぬ、だいたいなんで十手がそんなに必要なんだ」
「俺も考えてみたが、岡っ引きがいなくなれば、それだけ子悪党は動きやすい、なにか大きな仕掛けでもあるのかもしれない」
江戸の街を騒がすような大事件の前触れ、そう考えると警備をしている岡っ引きや同心を襲う理由がわかる。
「どちらにせよ、お前が動けないんじゃ始まらない」
「もう少ししたら仕事はできる」
「肩の傷だ、治るのは次の月だな」
渋茶をすすりながら伊藤伝八は、一馬の顔を細い目で見つめる。
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