マガジンのカバー画像

雑多な怪談の話

180
雑多な怪談話を入れます 写真は https://www.pakutaso.com/20170603152post-11830.html を利用しています
運営しているクリエイター

2024年5月の記事一覧

怪談 水茶屋の娘 【#赤い傘】シロクマ文芸部参加作品 (1600文字位)

 赤い傘を見つけると走り寄る。しとしと霧雨がふりはじめた。 「おみつ」 「真さん」  おみつは、年の頃は十七くらいの水茶屋の看板娘で真之介とは仲が良い。仕事の合間に近くを通ると茶を飲んだ。みなに好かれる娘で、誰かれなしに愛想をふりまいていたが、真之介とは本気の恋仲だ。 「あのな……」 「これ、きれいでしょ」  くるくると赤い傘を回す。おみつは自分が店に出る時は、その傘を置いて客に知らせていた。赤漆のきれいな傘だ。 「縁談が決まった」 「……」  おみつは前を向いた

SS お狐娘【祈願上手】#毎週ショートショートnoteの応募用(650文字位)

 たまにお狐娘の長屋に人が来る。父親が易者だったので頼み事をしたい客だ。 「そうですか、お父上はお亡くなりに……」 「私は占いができませんので」  でっぷりと太った男は眼をうつろにさまよわせる。彼は呪われている。 「なんとか助けていただけないでしょうか」 「祈願祈祷したいと?」 「はい」 「これに名前を書いて」  自分の名前を書かせて、それを小さく折りたたむ。それを、別の紙で作った『やっこさん』の中におさめる。 「これを家に置いて、そのまま旅立ちなさい」 「はぁ……

SS 私の見える世界 【色企画 第二弾‼︎】#新色できました(430字くらい)

 色は眼から入り色素を感じる受容体で識別する。だから色を人によっては同じ色とは限らない。 「まだお若いのに、ご愁傷様です」 「本当に、これからなのに」  父は憔悴しているが、母はそれほどは悲しんでいない。見えていたから…… 「かわいそうだけどね、しょうがないわ……」  母は私の頭をなでながらため息をついている。母は人が死ぬ時の色が見える。【霊色】を感じられる。いわゆるオーラだ。 「こうなんか体全体から、もやが出ていて色がついているの……」  母は私にだけは教えてく

SS 怪談:地下室のみち子【山岳カルマ】#毎週ショートショートnoteの応募用(930文字位)

 暗い山道を三人で歩く。急な登りは通勤列車ばかりの俺にはつらい。 「なぁ、どこに行くんだ」 「みんなの村よ」 「廃村になった……」  村の分校に通っていた。俺たち四人は仲良しで、同じ村に生まれて育ち、幼なじみが死んだ。 「みち子は、まだあそこかな……」  ぞっとするような記憶がよみがえる。 「その話はやめろよ」 「あれは、みち子が悪い」  子供の頃は男女二人ずつでペアのように遊んだ。幼い男女がする事は…… 「思いだしたくない……」 「みち子だけが嫌がってたからな

SS 赤い靴【#白い靴】 #シロクマ文芸部

 白い靴を見つめる。真新しい白い長靴はおかあさんが新しく買ってくれたけど、ぶかぶかで歩くと転びそうになる。 「大丈夫、すぐに大きくなるから……」  おかあさんは、なんでも勝手に決めてしまうので困る。ぶかぶかだから足をぶらぶらさせると、ゆるゆるする。 「赤い色が良かった」  赤い靴♪ はいてた♪ 女の子♪  悲しげな歌は、今の自分にはぴったりに思えた。大人は何もわかってくれない。  イジンさんに♪ 連れられて♪ いっちゃった♪ (イジンってなんだろう?) 「イジ

怪談 湖畔の古い旅館

「この旅館だ」 「古い旅館ね」  オカルト好きな俺と彼女は、幽霊が出ると噂の旅館に泊まる。静かな山奥の旅館は、古い湖畔のそばに立っている。 「いらっしゃいませ」  年老いた仲居は、皺だらけで表情すら判らない。薄暗い廊下は電灯もついてない。 「ここです……」 「まぁきれい」  窓から見える静寂で深い湖は緑色に染まり、ぞっとするような雰囲気でシュチエーション的に最高だ。 「幽霊でるかもな……」 「楽しみ」  脳天気な彼女は、マニアック過ぎて俺は飽きていた。彼女は本気

SS 消えた先生【放課後ランプ】#毎週ショートショートnoteの応募用(400文字位)

 放課後ランプを持って薄暗い階段を降りる。階段の踊り場にある大きな姿見が私をうつす。 「変な顔……」  キャンプ用のLEDランプはミカン色であたたかく感じる。 「なにしてる」 「先生……」  そろそろ定年の担任が私をじっと見ている。 「鏡に興味があるのか」 「別にないです」  数年に一度、学校から女生徒が消える。鏡に吸い込まれたと噂になる。夕暮れで薄暗い時間に誰にも知られずに消える。 「俺も定年で引退だ」 「……さみしくなりますね」 「俺はさみしくないよ」 「そ

SS 井戸の鬼【#子どもの日】 #シロクマ文芸部

 子どもの日が来た。村の大人達は数日前から準備をはじめている。僕は親戚の縁側で足をぶらぶらさせる。畳で横になる従姉は、だるそうだ。 「端午節って何?」 「鬼に憑かれない支度……」  親戚の家にGWにおとずれるのは初めてで父親は親戚たちといそがしそうだ。  従姉は十六歳で県内の高校に通っている。 「小さな子は、鬼になるからね……」 「……迷信だよね」 「前に端午節を、さぼった子がいた」 「それで」 「鬼になった」 「嘘だ」 「なったよ、だから井戸に落としたんだ」 「……

SS 色のある世界

「これで見えるようになります」  白衣の医者が自信に満ちた声で私に告げる。私は幼い頃に事故で頭部に外傷を受けて目が見えない。  見えないのは不便だが、馴れてしまえば生活はできた。でも両親は諦めきれずに治療法をさがしていた。 「新しい治療方法が見つかった、これで視力が回復する」 「良かったね」  父と母はとても嬉しそうにしているので、私は黙ってうなずくのみだ。 (見えるってどんな感じ……)  とても幼かったので私は見える事の記憶が無かった。顔は覚えている、部屋は覚え