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「ごめんなさい……ありがとう……さようなら……」 どう言えばいいのかわからない。 顔に飛び散った血を手でぬぐう。手に持った石を落とした。お坊様は、もう死んでいる。 xxx 貧しい村に生まれた娘は売られるか口減らしで殺される。娘は器量がよくないから買い手がつかない。 「とっちゃん、どこいくの」 「そこの原っぱさ」 何をするのか判らなかった、悲しそうな父親は歩きながらずっと娘の頭をなでていた。 「ここさ、座れ」 「ここ……」 何も無い地面に尻をつけると、す
いつものように川辺で散歩する。土手の下は石だらけの川原だ、そこで遊んでいる子供達を横目で見ていると、十五くらいの男子が近寄ってくる。学生服を着てる彼は迷子らしい。 「すいません、ここはどこですか」 「どこにいきたいの?」 私の顔を見て少し照れている。自慢じゃないけど私は美人でやさしい。雰囲気がほわんとしている。話しやすいのかもしれない。 「――家に帰りたい……と思う」 さみしげな彼の本心はわからない。家族に会いたいのではなく、不安だから家に帰りたいように思える。
閏年には弟が帰ってくる。それは嬉しい事なのに怖く感じる。 「ねえさん、また親父に殴られたの?」 「好き嫌いしたからね……」 卵の黄身が嫌いで弟にあげようと皿のすみっこによけとくと、父親から偏食するなと怒鳴られた。私が言いわけすると頬を殴られる。 「そんな事で殴るなんて」 「いいのよ、お父さんはいつもあんな感じ」 弟の手が私の頬をやさしくなでる。冷えた手のひらは気持ちがいい。双子で産まれた私と弟は顔が似ている。鏡で見ても見分けがむずかしいくらいに似ている。 「い
「春は好きです」 まだ寒さが残る庭先でも春めく気配はある。寒椿が咲いていると華やかに感じました。 書生の私にお嬢さんが嬉しそうに、ふりかえって笑って見せてくれた。先生の娘さんは、まだ十四歳でしたが、私になついてくれました。 「私も好きですよ」 赤紙が来たので戦地に旅立つ事になる。お嬢さんが大きくなるのをずっと見まもっていたのも懐かしい。ぎこちなく敬礼をして、お嬢さんと別れを告げると、お嬢さんは声を出さずに何かおっしゃっていた。私はお辞儀をして先生の家を出ました。
「洞窟探検だよ、簡単な洞窟だよ」 顔色の悪い小男が、羊皮紙のような巻物を配っている。大半の冒険者は見て見ぬふりをしていた。簡単な洞窟に入った所で、お宝は安物ばかりだ。 「あの……簡単なんですか?」 見習い冒険者のようだ。金髪の彼は、安い革製の胸当てを装備している。 「簡単なら参加したいです」 隣にいるかわいらしいツインテールの少女は魔法使い。とんがり帽子をかぶって、おすまし気味だ。才能をあふれた彼と彼女は手を握り仲良しに見える、彼らは未来の勇者になりたい。
「ここは幽霊でるんやで、知らんけど」 「幽霊なんて居るわけないじゃん」 男女カップルが廃墟ビルの中を歩く。落書きだらけの壁、床は散乱した廃材で足の踏み場も無い。 「ほんまやで幽霊に取り殺されるんや、知らんけど」 「じゃあ誰が死んだのよ」 男はきょっとんとした顔で女を見た。急に明るい光がカップルを照らし出す。 「きゃぁあああ」 「化け物だ!」 別の男女カップルが、LED懐中電灯で二人を照らす。頭が焼け焦げた男と、首が異常にねじれた女を見て悲鳴をあげていた。 「
梅の花の赤い花が挿してある。玄関先の竹筒に、いつしか梅が挿してある事に気がついた。長安に来てから一人で暮らしで知人は居ない。 (誰だろうか……) 朝に竹筒から抜いて部屋に飾る。美しい赤い梅の花は良い香りで部屋を満たしてくれる。 (こんな事をするのだから、どこかの町娘かな) 故郷から遠くに出稼ぎに来てから孤独の毎日だ。こんな梅の花だけでも、毎日が楽しく過ごせた。 「周礼、どうした」 「なんでもないです」 「やけに嬉しそうだな、女でもできたか」 職人仲間からか
戸棚には青い薬瓶がある。薬の名前が書かれたラベルはかすれていた。同じ薬瓶なので、何錠か取り出すと別の薬瓶を探す。小学生の私は、薬と白湯を盆に乗せて祖母の布団に持って行く。 「おばあさま、薬です」 「遅いよ、手をお出し」 皺のあるひからびた腕を伸ばすと、私の腕をつかみ、内側のやわらかい部分を爪できゅっとつねる。泣くくらいに痛いけど我慢した。声を出せばもっと痛くされる。じっと耐えた。 xxx 「いつもありがとうね」 母は疲れたように、私を慰めてくれる。昼間はずっと
暗い映画研究の部室で、二人の男子生徒がブラウン管TVの画面を凝視している。 「なぁ、これ……」 「ああ、マジだ」 白黒の映像は、かなり古いのか左右にノイズが盛大に入っている。リモコンでノイズを調整する。 「そのリモコンは?」 「売ってる店で行列のできるリモコン……」 「奇妙なリモンコンだな」 「ここ押すと拡大できるんだ」 よくある汎用リモコンかなと思うが、画面を拡大できる……どんな仕組みなのだろう? 「モザイクも消せるんだ」 「いきなり怪しいな」 しかし、
小雪がちらつく夜の街角で、スカート姿のおじいちゃんがマッチを売っている。 「マッジいらんがね」 野太い声で、歩いている市民に声をかける。もちろん大体の人は、驚いた顔をすると逃げてしまう。老人の頭がイカレていると思われていた。 「マッチくれ……」 「金貨一枚だ」 ぼったくりのような値段でも、太った客は興奮したように革袋から金を出して渡す。 「こっちだ」 「ああ……早くしてくれよ」 暗く冷たい裏路地に、二人で入るとマッチ箱を客に渡す。 「使い切るまでだ」 「
上記を参考にさせていただきました。Japanese MT-Benchを利用してみました。 枯れた井戸の横で少年が座っている。レンガで作られた井戸は古く、水をくみに来る人も居ない。少女が、ここを訪れたのは偶然だ、夏の避暑で叔母の家に遊びに来たけど、退屈で散歩をしている最中だった。 (何も無いところね……) 少女は都会のさわがしさを懐かしむ、ただ自然が広がり何も音がしない田舎は、暗く不気味に思える。 「この村の子?」 「……うん」 「ねぇ、ここを案内してくれない」 「