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雑多な怪談の話

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2023年11月の記事一覧

二十字小説 怪談二作目 #小牧幸助文学賞参加作品

一 遠く霞む果てない地下の湖を足一本で歩む。 二 ああ、と声を出したいが口がない幼い少女。 三 まぶたを縫いながら楽しそうに手探りの妻。 四 とても明るい光の前で立つ君は体から蒸気。 五 暗い部屋で、ぼそりとつぶやく腕の人面瘡。 六 くねるように踊る彼女は手足の関節が多い。 七 深い森を歩きながら手足からヒルが落ちる。 八 深夜のマネキンが巡回中の僕に色目を使う。 九 部屋を暗くすると手が現れて電気をつける。 十 果てなく文字を打ち、誰にも読まれない話。 #シロクマ文芸部

SS 弥勒【12月】 #シロクマ文芸部

※シュール注意  12月のカレンダーを見ていると違和感がある。あまりにも早く年末が来る。 「なぁ、もう12月だよな」 「そうよ」  妻がソファーに座りながら、おかきを食べて、お茶を飲む。熱心に韓国ドラマを見ている。最近だと中国の恋愛ドラマが好きらしい。 「年末かぁ、正月もすぐだな」 「そうね」  興味なさそうに返事する。妻の後頭部を見ながら自分で珈琲を入れて飲む。娘が成人してから家はさみしい。まるで誰も住んでないように感じる。 「明日も早いから寝るよ」 「おやすみ

SS 左川ちか詩集【詩と暮らす】 #シロクマ文芸部

 詩と暮らすために詩集を買う。その本は希少本でめったに手に入らないと古本屋の老人におすすめされる。 「左川ちか……知らない詩人ね……」  キッチンでコーヒーを飲みながらページをめくる、奇妙な詩は時代性が存在しない抽象的で、鋭利な言葉を私に突きつける。 「本当に異質な言葉の連続……」  生活に疲れて仕事をやめた時の開放感と取り残されるような焦り。仕事は、お客さんに理解しやすい言葉を使っていた。今は真逆の世界を覗いてみる。  きがつくとベランダは真っ赤な夕日にそめられる

SS エモすぎる謎ねぶた #毎週ショートショートnoteの応募用

 日本には奇祭がある、私は青森で裏ねぶたの取材をしている。フリーライターの田村が手招きをしている。 「神上清恵さん、こちらです」 「この……部屋なの?」 「そうです、裏ねぶたです」  古くほこり臭い土蔵の中で、ミニチュアのねぶたが置かれている。小さく灯りが光っている。 「昔は和紙を敷いて、下に提灯を置いて見物したようです」  今はLEDで幻想的に見えるねぶたは、昔の殺人事件を描写していた。 「これは飢饉で子供を殺した母親、これは妻を寝取られて、上役を殺した武士……」

SS 強すぎる数え歌 #毎週ショートショートnoteの応募用

「古い歌ですね」 「古い歌だよ」  中東の遺跡で発見された粘土板には、くさび形文字で歌が刻まれていた。シュメール人は、このくさびの文字でモノや人を数えている。  助手が円筒形の遺物を小型CTに入れて解析する。文字がくっきりと浮かぶ。 「数える時は旋律で歌として覚える」 「たしかに文字数が同じで連続してます」  文字を画像処理を読ませると歌なのが判る。 「中東の歌だね」 「そうですね、歌です、一つの恨みは言葉で返せ……、二つの恨みは……目を潰せ……」 「呪いの数え歌か」

SS 黒い動物園 #爪毛の挑戦状

 黒い動物園と金属プレートに刻印されているが、一般家庭の表札だ。 「黒い動物園さんのお宅?」  不動産の査定を頼まれて来たが一戸建ての六十平米くらいの家は静まりかえっていた。 「家主が死んで親戚が売りたいらしい」と上役から頼まれた。事故物件のような嫌な仕事がよく来る。今回も同じだろう。  鍵を開けて家に入ると電気は止まっているので暗い。LED式の懐中電灯で中を照らしながら、進むとドアの前にもプレートがある。 「キリン」 ドアを開けると首が伸びきった男が椅子に座っている

SS 少女漫画のように恋をして【逃げる夢】 #シロクマ文芸部

 逃げる夢は私の願望に思える。坂道を歩いている時に、体がふわりと浮き上がり地上から数センチだけ浮いて坂道をすべるように走れるのがとても楽しい。後ろから何か聞こえるが無視して先に進む、私に追いつけないソレは悲しそうに泣いている。 「お前は本当にかわいいな」 「今月のバイト代……」 「悪いな、あとでホテル行こうな」  私より頭二つ分は高い彼は、俳優のようにまぶしい。彼と歩くだけで誇らしく自信を持てる。彼が居ないと私は存在しないのと同じ。だからお金を渡す。 「もうやめなよ」

SS お泊まり会【誕生日】 #シロクマ文芸部

 誕生日会に呼ばれた……少女がつぶやく。刑事はメモを取りながら中学生の話を聞く。どこにでもいる普通の子に見えた。清潔で若い彼女は黙ってうつむいている。 「不審な死に方でね、それで異常な音とか聞いたかなと?」 「寝ていただけです」 「先輩、いいですか」 「なんだ」 「解剖の結果でました」  間延びした後輩刑事の声を聞いて少女を帰す。後輩が死亡した父親の血液データを見せる。 「酒の飲み過ぎですね」 「アル中か」 「血中濃度が1%近かったです」 「高すぎだな」 「あとカフェイ