マガジンのカバー画像

シロクマ文庫用と青ブラ文学部等の企画参加作品

35
企画された作品を置いときます
運営しているクリエイター

#小説

SS 約束【#雨の七夕】#青ブラ文学部参加作品(1400文字くらい)

 川が増水したのか水が濁っている。思妤は、ものうげに川面を見つめる。雨の七夕は、湿気も多く憂鬱に感じた。 「思妤、することがないなら針仕事でもしな」 「あぃよ」  ごうつく婆は、遊郭の女が暇そうにしているのが許せない。渭水の対岸は長安で、船で遊びに来る客が多く繁盛していた。 (あいつ来るって言ったのに……)  星宇は、思妤のなじみの客で、牛の売り買いで財をなしていた。若く聡明な彼は、彼女を見受けをすると誓いを立てた。 (嘘の約束なんてしなくても、金もってくれば……)

SS 田舎の池【ラムネの音が】シロクマ文芸部参加作品 (940文字位)

 ラムネの音がする。かすかで小さくて聞こえない。栓を抜くとビー玉が容器の中に落ちてくるりと回る。神秘的な蒼い瓶をいつまでも、あきずにながめる。  ラムネの飲み口に耳をよせるとシュワシュワと小さくつぶやくような音が聞こえた。 「――なにかしゃべってるみたい……」 「よう子ちゃーん」  遠くで母が私を呼んでいる。池のほとりでラムネを飲むのが好きだ。池の蒼い色で心がやすらぐ。田舎の舗装されていない農道を、雑草を踏みながら家に戻ると母がにこやかに笑っていた。 「お父さんがおみ

SS お弁当と彼 【#月曜日】#シロクマ文芸部参加作品(1300文字くらい)

 月曜日は日直なので早く家を出る。お弁当を作って登校すると、あの曲がり角で彼がいた。 「よぉ」 「おはよう」  彼はお弁当を見ると、ばつが悪そうに眼をふせる。 「まだ気にしているんだ」 「あの時は悪かった」  ぶっきらぼうな彼と、この角でぶつかって、お弁当を落としてしまった。びっくりしたような彼の顔が面白く私はクスクスと笑った記憶がある。 「今日も学校か」 「当たり前でしょ」  一緒に学校へ歩きながら、不良っぽい背の高い彼はクラスメイトだった。校門の所まで来ると、

SS 笑った娘【隔週警察】#毎週ショートショートnoteの応募用

 夜のガードレルに女が座っている。誰かを待っているようにも見える。 「おい」 「なに……」  男が近づくと胸ポケットから紙巻きを取り出す。女がマッチをすって火をつけた。 「いつまで続けるんだ」 「説教するなら帰って」 「聞いただけさ」 「いつか終わる……」 「文字通りの意味か」 「……」 「なぁ……」 「今日は非番なの」 「ああ……隔週警察さ……」  深夜に見回り、彼女たちを箱に閉じ込める。そんな仕事だ。 「ねぇ、銃ある?」 「俺にそれを言うのか」 「だって売人のは

SS 戻った男 【#紫陽花を】シロクマ文芸部参加作品 (910文字位)

 紫陽花を手に取りハサミで切り取る。毒はあるが煮詰めれば薬として使えた。  吊られた蚊帳の中で畳の上にあおむけに女が横たわっている。青白い顔で生気がもう無い。 「ケホケホ……」 「姉さん、お薬よ」 「もういいわ……早く死にたい」 「いつも、そればかりね」 「だって苦しいんだもの」 「あの人が帰ってくるわ」 「戻らないわ」  姉の許嫁は、仕官のために武者修行で旅している。剣客として認められれば俸禄をもらい家を持てた。姉と私は戻らないと確信していたが……  雨が降り続き、

怪談 水茶屋の娘 【#赤い傘】シロクマ文芸部参加作品 (1600文字位)

 赤い傘を見つけると走り寄る。しとしと霧雨がふりはじめた。 「おみつ」 「真さん」  おみつは、年の頃は十七くらいの水茶屋の看板娘で真之介とは仲が良い。仕事の合間に近くを通ると茶を飲んだ。みなに好かれる娘で、誰かれなしに愛想をふりまいていたが、真之介とは本気の恋仲だ。 「あのな……」 「これ、きれいでしょ」  くるくると赤い傘を回す。おみつは自分が店に出る時は、その傘を置いて客に知らせていた。赤漆のきれいな傘だ。 「縁談が決まった」 「……」  おみつは前を向いた

SS 難易度MAX【奇岩シューズ】#毎週ショートショートnoteの応募用

「この指輪はなんだっけ?」 「溶岩の指輪だ、溶岩ムカデを倒すともらえる。それをつけると溶岩ダメージが軽減される」  実況用のコメントに誰かが答えた。いつものようにゲームを実況しながら配信すると、リスナー(見ている視聴者)が、いろいろとアドバイスしてくれる。 「このブーツなんだっけ?」 「奇岩シューズだ、レアドロップだね」  なんでも聞きながらゲームをしていると、自分で考えない。悪い癖だ、これではリスナーにコントロールされているだけだ。 「よし奇岩城に旅立つぞ」 「やめ

SS 難題

「ファンタジー・ミステリーの青春ロマンスで感動できる話……」  応募内容を見てためいきが出た。 「これは昔のファンタジー小説みたいなものかしら?」  鼻と口の間に鉛筆を、はさんでフンフンする。ミステリー要素だと、江戸川乱歩の少年探偵団みたいな感じ? 怪人が深窓の令嬢を狙うが、小林少年が阻止するみたいな作品かな? 「それ設定が古い……」  昭和ロマンみたいなものが受けるとは思えない。八十年代はSFファンタジー全盛期で、宇宙皇子やグイン・サーガとか流行っていた。でも青春

SS 竜になる金魚 【#金魚鉢】シロクマ文芸部参加作品

 金魚鉢は丸くて小さくてジャリも入ってない。 「がっかりだよ……」  リュウキンの俺はシロとアカの鮮やかな体で金魚鉢の中央に浮かぶ。夜店の金魚すくいでつかまった。今は金魚鉢に入っている。 「昭和かよ……」  金魚鉢は古く今にも壊れそうでヒヤヒヤする。子供が近寄ると金魚鉢をコンコンと叩いて喜んでいる。俺は水面から顔を出して文句を言う。 「おい、エサあるのか?」  子供はびっくりした様子だったが金魚のエサを持ってくる。水面に落ちたエサを食べ終えると 「金魚飼育セット

SS 赤い靴【#白い靴】 #シロクマ文芸部

 白い靴を見つめる。真新しい白い長靴はおかあさんが新しく買ってくれたけど、ぶかぶかで歩くと転びそうになる。 「大丈夫、すぐに大きくなるから……」  おかあさんは、なんでも勝手に決めてしまうので困る。ぶかぶかだから足をぶらぶらさせると、ゆるゆるする。 「赤い色が良かった」  赤い靴♪ はいてた♪ 女の子♪  悲しげな歌は、今の自分にはぴったりに思えた。大人は何もわかってくれない。  イジンさんに♪ 連れられて♪ いっちゃった♪ (イジンってなんだろう?) 「イジ

SS 最高の彼女 【君に届かない】青ブラ文学部用(730文字位)

 君に届かない、並んで歩きながらいつも感じる。 「なんか猫背気味?」 「だって身長がまた伸びて……」  彼女は170cmを軽く越えていた。だから自分と一緒に歩くときは、かかんで歩く。 「気にしないでくれ、俺は平気だから」 「うん……まぁ……そうだけど、バランス悪く見るかなと?」  心が痛い、確かに美人で頭も良くて背が高い彼女と並ぶと、まるで弟みたいな気分だ。 「身長ごときで、コンプレックスは無い!」 「そうよね、身長で人の価値は決まらないわ」  笑顔の彼女を見てい

SS 人の居ない街【#風薫る】 #シロクマ文芸部

 風薫る だれもおらぬ 道を吹く  Λは、無機質な通路をぶらぶらと進みながら、人間に習った俳句を口ずさむ。 (今日は、きゅうりとトマトを植えるかな……)  空気が人間の体感で最適の温度と湿度を保っている。花の香りがするのはΛが花を育てているせいだ。  紫陽花、花菖蒲、薔薇、薫衣草、色とりどりの花は人工で作られた種を利用している。 (人間は何をしたかったのかな……) 「やぁΛ」 「γ、今日は動けそうかい」 「無理だね」 「部品を作ろうか?」 「このままでいいよ」

SS 井戸の鬼【#子どもの日】 #シロクマ文芸部

 子どもの日が来た。村の大人達は数日前から準備をはじめている。僕は親戚の縁側で足をぶらぶらさせる。畳で横になる従姉は、だるそうだ。 「端午節って何?」 「鬼に憑かれない支度……」  親戚の家にGWにおとずれるのは初めてで父親は親戚たちといそがしそうだ。  従姉は十六歳で県内の高校に通っている。 「小さな子は、鬼になるからね……」 「……迷信だよね」 「前に端午節を、さぼった子がいた」 「それで」 「鬼になった」 「嘘だ」 「なったよ、だから井戸に落としたんだ」 「……

本当の人生【#風車】 #シロクマ文芸部

 風車が回る、子供が手にもってくるくると回しながら道を走っている。 (俺もあんな風に遊んだ……)  公園のベンチでぼんやりと座る男は、家を追い出されたばかりで途方にくれていた。 (仕事もない……家賃も払えない……)  子供の頃を思いだす、なんにでもなれた。パイロットにも野球選手にも、スーパーヒーローにもなれると思っていた。 (無駄な人生……、もっと真面目に仕事すれば……)  ふと気がつくと、小学生くらいの少女が風車を持って立っている。 「人生をやりなおしたい?」