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シロクマ文庫用と青ブラ文学部等の企画参加作品

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企画された作品を置いときます
運営しているクリエイター

2024年2月の記事一覧

SS 女工の告白 【チョコレート】 #シロクマ文芸部

「チョコレートの大釜にお嬢さんが落ちたんです。助けようとしましたよ、でも間に合わなかった」  刑事がメモを取りながら病室の女工の話を聞いている。 xxx  私の名前はチヨです、カタカナでチヨです。十四からチョコレート工場で働いています。もう十年くらいです。  仕事ですか? 釜の温度の測定です。大釜は平屋くらいの高さがありますから、らせんの階段で昇って、てっぺんにある温度計を見るんです。たまに変な温度の時は、小さなレンチで叩くと戻ります。それで戻らない時は、ボイラーの人

SS 勘違いのチョコ 【チョコレート】 #シロクマ文芸部

 チョコレートを、渡し間違えた。 「ありがとう、乃愛さん」 「……うん、いいのよぉ~」  やさしげな眼は、喜びで笑っている。吉岡昭博は、私の本命チョコをすぐにカバンにしまった。 (……それは、遥斗に渡すつもりで……)  遥斗が私の席に近づくと、私は、いそいでチョコを出して、眼をつむって差し出す。たまたまそこは吉岡昭博の席だった。  タイミングが遅すぎた、眼を開くと遥斗は、素通りして自分の席に座っている。 (なんて……ドジな……)  背が私より低い吉岡昭博は、雰囲

SS 帰還 【青写真】 #シロクマ文芸部

 青写真が、机に置かれている。 「間取り図ですか」 「かなり古いね」  図面に描かれた線は、輪郭もわからないくらいに古くかすれている。半世紀前の図面から、奇妙な隠し部屋があるとわかる。 「きっとおじいさんの遺産があるんですよ」 「隠し部屋か、ロマンだね」  親戚は興奮で騒いでいるが、弁護士の私は懐疑的だ。 (わざわざ隠す理由がない……)  遺産があるなら私に真っ先に知らされている筈だ。資産家の故人の男性は、何かの特許で財をなした。あり余るほど金はある。 「さっそ