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雑多なSF設定

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SF設定の小説を集めます ・ケモナーワールド ・ジェリービーンズ ・猫探偵
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#シュール

SF 黒猫

 暗い部屋に閉じ込められて死を待つ。黒い猫がいつもそばいにいる。 「私が悪いの」 「悪くないよ」  私は夫に隠れて浮気した。夫を裏切ったといわれるが夫だって若い女と浮気をしていた。暗黙の了解だ、私も浮気を許されたと思う。 「私も愛が欲しかった」 「愛は大事だね」  猫は私の味方かもしれない、私を許してくれる。夫は私の浮気を知ると激しい暴力で何時間も殴る。 「私は怖かったの」 「君は自分を守っただけさ」  私は逃げた、地下室に逃げた。あの壁は崩れていた。だから追って

SF 先住者

 暗く古い屋敷が少しずつ見えてくる。十七世紀の館は大きく広く寒々としている。 (祖父は、こんな家に住んでいたのか……)  遺産の家を見に来ただけだ。売れるかもしれないと淡い期待をしたが、とても住めないと感じる。窓から灰色のカーテンが見えた、少し揺れた気がする。 (ネズミでも居るのか)  ゴミだらけでカビと埃まみれの室内に入るべきか悩んだが、管理人から鍵はあずかっている。せめて入って確認しようと決心した。  重い扉の鍵穴に、鉄さびだらけの鍵をさしこみ回した。なぜか心が

SF 帰還

 そのときは飼えなかった。まだ子供だったので大人の言うことが絶対だ。だからその子を捨てた…… 「拾ったのに捨てたの?」 「飼えなかったから仕方ない」 「最低ね」 「……」  言い訳もできない。黒い動物は犬か猫に見えるが耳が人のように横についていた。だから猿の子だと思う。  恋人とベッドの中でひそひそと昔話をする。退屈しのぎでしかなかったが徐々に思いだした。 「名前は、ヒューイだったかな……」  口の中でひっそりと呼んでみた。 xxx 恋人が死んだときは悲しみより

SF 永遠

 老人は暗い部屋で白黒の映像を見る。映像の男達は、何も不安も心配もなさそうに見えた。映像の男たちは死んだ友達だ。 「幸せか」 「幸せだ」  電脳に自分の精神をアップロードをして、永劫の命を楽しむ。 「俺もそちらに行くよ」 「待ってるよ」  弱った体は、どこもかしこも痛い。早く楽になりたいが自然死以外は、脳データをアップロードできない。 (自殺した奴が永遠の命を得ても……)  人の魂は、どこにあるのか。記憶だろうか? 人格だろうか? 脳のどこに含まれているのか……

SF 選別

 暗い部屋のブラウン管は、歪んだ映像を映している。私は選ばなくてはいけない。  かすれてよく見えない映像の中の男達は、不安そうに見えた。私がボタンを押す事で男は死ぬ。それが判っているかのように、おびえている。 (男が増えすぎたせい……)  男達は無作為に街から拉致をされて閉じ込められた。もちろん普通に働いている男は選ばれない。  女は希少で貴重だ。そんな女に害を与える可能性があるならば、駆除しなくていはいけない。だから女が選ぶ。  男達は何が起きるのか知らされていな

SF 映画館

 古い無声映画を見る。音の無い映画はBGMはないので、ひたすら画面に集中する。  内容は女が男に追いかけられる話だ。執拗に恋人にしたい男は、女を部屋に閉じ込めてしまう。よくある展開だ。  だが男は何かの理由で死んでしまう。部屋に戻れない。路上に男の倒れている手が見えるだけ。  女は男の帰りを待つしかない、飢えと恐怖でしだいに冷静さを失う。極限の彼女は、出られない部屋をさまよう。  いきなり映画が途切れた。  フィルム映画なので切れてしまう事もあるので黙って座って待つ