『この世界に残されて』、頬杖をつくように

1948年、ハンガリー。
ホロコーストで家族を失い、一人生き延びた少女クララ（アビゲール・スーケ）は心に傷を抱え、ふたりで暮らす大叔母にも心を開くことができない。ある日、寡黙な中年医師アルド（カーロイ・ハイデュク）の診療を受けたクララは、自分と同じ孤独を感じ取り、アルドに懐き始めるのだった。
手を焼く大叔母に乞われ、アルドは戸惑いつつも父親代わりとして、週の半分をクララと過ごすようになる。
孤独をわけあい、優しく穏やかな日々を送りはじめた二人だったがー

ともにホロコーストを生き延びた、16歳の少女と42歳の医師が年の差を越えて心を通わせていく。プロットだけで惹かれるものがあった。
それでも、ふたりの感情にいたずらに踏み込んだりせず、あからさまなシーンも用意されないのだ。

淋しいとアルドのベッドで眠り、それが当たり前になっていく。週の半分だけでは足りない気持ちを抱えて焦れる。
賢いけど不安定なクララを、アルドは最後まで大切に扱う。きな臭い時代の世間体や、道徳心、失った家族の面影に揺れながら、互いに支え合い立ち直っていく姿を、手堅く描く。

世界に残された二人が、この先別々の相手と歩きだす、ちょっぴり切ない再会の場面で幕を閉じる。

より愛していたのはきっとアルドの方で、美しくなったクララの溌溂とした明るい表情に動揺する彼は、その切なさを隠しきれなかった。
手放したものの大きさと、抑圧した想いの肯定で前へ進んでいく、希望滲む慎ましいラブストーリーになっていた。

監督は本作が長編デビューのトート・バルナバーシュ氏。

（2019年・ハンガリー映画）