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『さかなのこ』にみる、ミラクル

 若きさかなクンのテレビ登場シーンを覚えている。個性的なヘンな人だなと、おもったけど苦手になるよりむしろ、好きを一生続けていくだろう博識アートなさかなクンへの尊敬は深まるばかりだ。

本編は自身初の自伝的エッセイを、沖田修一監督が映画化したハートフル・ドラマ。

性の別を越えて、さかなクンをのんちゃんが演じて大成功。しかもゆえにファンタジーに寄っていくウソみたいな本当の話を素直に受け取れる工夫のある気がする。沖田作品はいつも心根優しい誠実で溢れている。

魚が大好きすぎて数奇な人生を歩むことになるさかなクンが、まだ小学生で”ミー坊”と呼ばれていたころ。微笑ましくも突飛なエピソードで綴る物語にクスクス笑いが絶えない。

高校性になるころには、町の不良たち(柳楽優弥、磯村勇斗、岡山天音)と不思議に友好を深めていく。さらには大人になって、幼馴染(夏帆)とその幼い娘との奇妙な同棲生活のなかに生まれた、ちょっと切なく世知辛い愛情までも描くのだ。

彼らとは、大人になってもずっと支え支えられたステキなドラマがそこにはあるのだった。

こだわりの強いちょっとヘンテコな人間にとって、この世、とくに空気を読む日本はきっと生きにくい。それでも、先日のトットちゃんもそう、みんなと同じが苦手な子どもを懐深く肯定する度量のおおきな大人が守ってあげられたなら、立派な個性を生きる力を与えられるはずだ。奇跡のような本当の話。

のんちゃん、母親役の井川遥さんにはじまりキャスティングが絶妙。沖田修一監督の慈愛に満ちた良心は、日本映画のある種希望であると信じている。

 (139min)

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