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藍色の涙

君のおかげで全部が美しく見えたんだ。


色が分からない友人がいた。白黒の世界だという。色覚異常者だからと言って突き放す必要なんてない。それに友人も私といることを楽しんでくれているようで、よく話をした。

色がわからないからか、こんな質問をよくしてくる。
『ねぇ、青ってどんな色なの?』

どんな色かと聞かれても…その色に定義がある訳じゃあるまいし、そもそも言葉で表現するには難しい。だから、世間一般的な青が使われる時を考えて返事をした。
 
「聞かれても難しいけど…青は悲しい時とか辛い時とか…なんというか、その、人がマイナスな気分でいる時に使われることが多いよ。ほら、マタニティーブルーとか。」
 
『ふーん』と、はなから興味も無かったような返事をした。
私の気分も青くなりそうだ。そんな冷たい返事。
どう言えばいいだろう、と考えていると友人がまた聞いてきた。
『青は綺麗?』
きっとこれは私の意見でいいのだろうと思い、
「うん。私は好き。綺麗な青は癒される。」



今自分が言ったことに違和感がした。
マイナスで、美しい?癒される?人の悲しみが美しいというのか。この私は。

「ねぇ、なんで青が哀の色なのに綺麗なんだと思う?」
 
友人は一瞬酷く困惑した顔を見せたが、すぐになんで私に聞くんだよと揶揄うような顔をした。そして暫く悩んだ末、こう言った。





『「あい」に「涙」があるからじゃないかな。』





あいに涙?哀?愛?虚数の𝑖?考えれば考えるほど複雑に絡んでいく。

その錯乱した思考を解くのは、君の言葉だった。

『涙ってね、流すことで心の蟠りを軽減することがあるんだって。裏切らないで、人に1番寄り添ってくれるものだと思う。例えば、心が疲れた時は泣いてしまう時もあるじゃない?悲しかったり、辛かったり、寂しかったりで。でも、その感情を溶かして外に流してくれるのが涙だよ。我慢して我慢してやっと溢れてしまった涙だとしたら、その人は今まで他人に迷惑をかけないように、泣かないように、って頑張ってた心の綺麗な人だと思う。そんな人から流れた涙は綺麗だと思わない?』

そんなことを考えていたんだと思うと、少し心がきゅっと絞られる気がした。友人の話はまだ続く。

『愛の涙だって綺麗だよ?だって、その人のために流せる涙なんだもん。その人と一緒に喜んだり、悲しんだり出来て、その人のために笑って、泣いて。その人もきっと心が綺麗なんだと思う。真剣で。』
 
『見えない𝑖もあるよね!自分の弱いところを隠そうとして、誰もいない気づかれないところで流す見えない涙も、すごく綺麗だと思うよ。』


あれ、こじつけだったかな?と君は自分に呆れたように苦笑する。私はこの子が本当に色が見えないのかと疑ってしまった。どうにも鮮明で、重く突き刺さったから。

友人がほろりと一言零した。


だから、藍という青も綺麗。
藍色の空から降る涙も。

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