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WINTER CUP 2022 鹿児島県予選レポート②男子の部

高校バスケの最高峰、ウインターカップ。10月下旬、2週に渡り開催された鹿児島県予選にて、男子は鹿児島工業高校が優勝(2年ぶり6回目)、昨季のウインターカップから今季の大会を順に制してきたれいめい、川内、池田に対して「一戦必勝」の姿勢で挑み、頂点へと登りつめた。準優勝は今夏インターハイ優勝の池田、3位には川内と鹿児島商業が入った。男女準決勝、決勝の会場となった薩摩川内市のサンアリーナせんだいではメインコートを設営。スタンド席が取り囲む晴れ舞台に、多くの観客が声援を送った。

男子決勝「池田 vs 鹿児島工業」

今季最後の一戦、Tip off!

インハイ優勝の立役者だった3年生の一部が引退したが、第1シードとして順当に勝ち上がってきた池田と、一戦ごとにチーム力を上げてきた鹿児島工業。夏は池田に21点差で敗れてベスト8に留まっていた。準々決勝、れいめいを逆転で下し勢いに乗る鹿児島工業は、準決勝で川内を1点差で押し切り、決勝進出。ひたひたと追い上げてきた鹿児島工業を、チャンピオン池田が迎え撃つ。決勝は締まった好ゲームとなった。

池田のスタートは1番有村、10番榮谷、23番小野、34番藤山、77番永田。鹿児島工業は6番有川、7番森田、15番原口、16番武田、18番叶。序盤、いい形で試合に入ったのは鹿児島工業。池田の敷いたゾーンディフェンスの不意を突くように15番原口のミドルで先制すると、1Q原口のシュートは次々に吸い込まれ計10点。森田、川原のスリーも決まる。守っては池田のシューター77番永田を抑え、インサイドは2人、3人で囲む。先行された池田は23番小野の得点、代わって入った18番楠元がショットクロックいっぱいでスリーを決め、流れを戻す。池田13-20鹿児島工業で1Q終了。

2Qに入ると攻守の切り替えが早くなり、互いにペイントアタックを繰り出す。池田1番有村がインサイドで連続得点すると、鹿児島工業はリードのうちにタイムアウトを取って対応。7番森田のスリーが決まり10点差に開くと、たまらず池田がタイムアウト。修正を図るが、今度は14番川原が2本のスリーを決める。ディフェンスでリズムを作れず、攻めあぐねる池田は我慢の時間帯。それでも池田10番榮谷が16番武田に付かれながらもスリーを決めるなど、2Qは14-14の五分。鹿児島工業7点リードで後半へ。

心地よい緊張がコートに漂う

3Qに入ると池田のオフェンスが機能し、鹿児島工業はなんとかファウルで止める展開。77番永田、23番小野のフリースロー、10番榮谷の2本のスリーでじわじわと追い上げ、榮谷が敵陣でのスティールから得点を上げてついに逆転。対する鹿児島工業もリバウンドに飛び続ける18番叶がリングに絡み、4得点を上げ食い下がる。46‐44と池田がこの試合初めてリードしてクォーターを終え、勝負は最終4Qへ。

残すは10分、先手を取ったのは鹿児島工業。7番森田が倒れながらもシュートを決めて同点に戻すと、池田有村がフェイダウェイショットを決め再びリード。オフェンスリバウンドを粘り、34番藤山のスリーが決まり5点差とするが、鹿児島工業16番武田がインサイドで得点、6番有川のエンドワンで同点に。追いつ追われつの最終盤、6番有川、16番武田のコンビで連続得点、7番森田がフリースローを2本しっかり沈め、6点のリードを奪う。池田も最後まであきらめない。77番永田が足をつりながらもファウルを取り、大黒柱の1番有村がシュートを決め3点差に迫る。残り1分を切り、56-59のワンポゼッション差。池田の波状攻撃を、鹿児島工業の気迫が跳ね返す。18番叶がリバウンドを押さえると最後は森田が放り上げ、試合終了を告げるブザーのなか、歓声とボールが高く上がった。

すべてを出し切ったラスト

試合後、池田・田中博史ヘッドコーチ、田中真江マネージャーと鹿児島工業・宮迫ヘッドコーチには、互いの健闘をたたえあう姿があった。「気持ちよく戦えた決勝戦でした。私が心から尊敬しているコーチのひとりです」と田中マネージャー。宮迫ヘッドコーチは鹿児島県・成年男子チームの監督でもある。栃木国体、鹿児島は準々決勝で東京にオーバータイムの末、惜しくも敗れて5位。来年の鹿児島国体にて「地元開催で初優勝」を誓う監督に、鹿児島工業の選手たちが一足先に優勝というプレゼントを贈った。

左から池田・田中マネージャー、田中博史ヘッドコーチ、鹿児島工業・宮迫ヘッドコーチ

宮迫ヘッドコーチ「すごく濃密な1週間だった」

-優勝おめでとうございます。決勝を振り返って
宮迫HC「池田は格上、インターハイの優勝校で、チームは変わっているが、自分たちのメンタルとしては、チャレンジャーの気持ちで入るべきだ、と。川内に勝って、自分たちも対等だという思いがあると、相手に先手を取られた時にもろく崩れていくような気もした。チャレンジャーの気持ちを強く持って、向かっていく姿勢を前面に出していこうと臨みました」

-決勝のゲームプランは
宮迫HC「相手がゾーンディフェンスをしてきたらこういう攻めで、マンツーマンだったらこう、という話をしていて、前日から池田はずっとゾーンだったので、おそらくゾーンで来るだろうと。実際、池田は1-2-2、3-2、下が2人のゾーンを使っていたので、このゾーンはこのオフェンスという組み立てがあり、15番原口のミドルが立て続けに入った。準備した形どおりに、一番いい入り方で先手を取れた。ポンポンと点が入り、池田はやや硬くてシュートが落ちていた。池田は勝ち上がりの決勝までに、ディフェンスの強度がうちほどの相手とはやっていないので、おそらく最初はシュートが落ちるだろうと。そこでリバウンドをしっかり取って、アドバンテージが取れたらいいなと思っていました」

-池田のシューター陣を見事に抑えた
宮迫HC「ロースコアになることは予想していました。池田の10番はゲームコントロールの役割も担い、シュートに行くより周りを使ってくるだろうと予想。ボールを離して、2回目もらいに行く時には気をつけるよう、話していました」

-前半先行したが、後半はシーソーゲームに
宮迫HC「地力のあるチームなので、簡単でないのはわかっていた。前半の点数を見た時に60点前後の試合になるかもなと。うちもあまり点数は取れないだろう、ディフェンスで我慢して、辛抱強く戦うしかない、と」

-選手たちは最後まで落ち着いていた
宮迫HC「苦しいところで16番武田がリング下のシュートと、ジャンプショットと2本決めてくれた。ここぞというところで自分で行って点数を取り、ポイントガードとして理想的な形でゲームを作ってくれた。あれで、もう一回、自分たちがアタックしていけば、点数は取れるという勢いをつくってくれた」

-今季、思うように実力を発揮できない苦しさもあったのでは
宮迫HC「夏までを振り返ると、コロナ感染が出るなど思うようなチーム練習ができなかった。急ピッチでチームを作っていったが、エネルギーが足りていなかった。メンタルの疲労もあり、なかなか試合に集中できる環境ではなかったです。インターハイ予選が終わり、3年生の多くが引退。この選手たちで戦っていくしかない、と練習試合からずっと、使い続けてきました」

-れいめい戦は3Qに33点と爆発しての逆転勝利
宮迫HC「組み合わせが決まった時点で一つひとつクリアしていくしかない、一戦必勝だと。2週目につなげるためには、れいめいを倒さないといけない。高さのある相手をどうやって抑えていくか。逆転した3Qはちょっと出来すぎでしたね。 14番川原のスリー3連発で一気に一桁点差に追いついた。点数の取り方が良かったですね。いい勝ち方ができたれいめい戦、それで自分たちがやってきたことに対して自信をつけて、気持ち良く2週目に入れた」

宮迫HC「川内戦は1点差。川内の子たちは焦りがあったかな。うちはれいめいとクロスゲームをやってきた分、少し有利だったかもしれない。選手一人ひとりがそれぞれのいいところを発揮し、チームとしてバチっとハマった。大会が終わってから、いろんな人から連絡もらい、お祝いの声をいただきました。れいめい戦、川内戦、池田戦と3試合、ああいう感じでものにしていくという経験は、僕自身あまりないこと。なかなかレアな感じだったので、すごく濃密な1週間でした。生徒たちも夢を見てるんじゃないか、くらいの感じはあったんじゃないかな」

-試合後には感極まる場面も
宮迫HC「いろんな思いがよぎりました。ウインターカップ、自分もヘッドコーチとして出場したのは2010年が最後で、それ以来となります。ひさしぶりにあの舞台に立てるかと思うと、感無量ですね。全国での一勝は難しいですけれども…このチームでそれができたら、おもしろいなと思いますね」

冬までチームを支えた3年生。左から武田、福元、福迫、川原、原口

#16 武田大輝「自分がやらなきゃ後悔する、と思った」

-大会を振り返って
武田「自分たちはチャレンジャーとして挑むだけだったので、準備した部分が全部出せて戦えた。結果が出たのでうれしいです。まずはれいめい戦に集中しようと、いい形で勝てた。川内、池田に対しては1週間かけて対策を準備したのが通用した。自分たちの強みであるディフェンスがよく機能して、いいゲームができたと思う」

-自分の良かったプレーは
武田「川内、池田戦と自分の調子はものすごく悪かった。チームメイトに助けられて勝てたと思う。優勝して一番はほっとした、みんなにありがとう、という気持ち。自分のこの出来で、優勝させてもらっていいのかな、という思いもある。サポートしてくれた家族、保護者の皆さん、鹿児島工業の紫のシャツを着て応援に来てくれた皆さんのために優勝したいという強い気持ちがあったんですが…自分のパフォーマンスがとにかく悪くて…」

-それでも、やはりバスケはPGだなと思わせた
武田「池田戦、自分が点取らなくても周りに点数を取らせたり、徹底して守るというのは、調子のいい悪いなしにやり続けることはできたかなと思います」

-4Q、キーポイントとなるドライブでの得点
武田「相手に追い上げられるなか、自分がやらなきゃ後悔するな、とふと思った。自分がやってやろうと思ってアタックしたのが、何本かいい形になったのは良かったです、、けれど、満足はしてません!」

-3年生としてチームを引っ張った
武田「3年生5人、それぞれ持ち味が違う。試合に出たのは3人だが、マネージャーやベンチ入りの選手も、相手のセットプレーを伝えてくれたり、声を出してくれたり。3年生の引っ張りに1、2年生が連帯して付いてきてくれた」

-試合中はポーカーフェイス、最後まで冷静でした
武田「いつも40分通して最後に勝つということ、自分ひとりでやろうとせず、チームとしてやろうと思ってる。我慢強く戦って、最後に笑いたい」

-武田くんを勝たせたいという思いがみんなにあったようだ

武田「練習の中で、チームに対してこうしようという意見を多く言ってきました。みんなもそれにこたえようと頑張ってきてくれたので、そう思ってくれていたとしたら嬉しい」

-ウインターカップに向けて
武田「全国大会まで、次に何をやろう、という具体的なものが見えてきた。2年前のウインターは、自分と原口が1年生でベンチメンバーとして唯一経験している。全国の舞台の感覚を練習の時から伝えて、しっかり準備したい。県予選でよかった部分、ディフェンスをもっと高めて、鹿児島工業らしいバスケットをして、ひとつ勝てるように頑張りたいと思います」

#14 川原拓実「メンタルの作り方。やってきたことが今大会、花が咲いた」

川原「インターハイで引退する予定だったが、ウインターまで残るとなった時に、やるしかないと切り替えた。一昨年のウインター以来、遠ざかっていた優勝、素直に嬉しい。れいめい戦はチームの調子を上手く上げていけた。雰囲気がすごく良くて、負ける気はしなかった。(スリー3連続は?)あまり当たってなかったけど、打ち続けたからあそこで入った。チームメイトが信頼してパスを出し続けてくれたおかげです」

-川原くんが雰囲気づくりを先導したと聞く
川原「父や兄(川原侑大さん。鹿児島工業→東海大→川崎ブレイブサンダース・アナリスト)ともよく話すんですが、関東でバスケに関わった兄から、メンタルの作り方が違うというので、気持ちの持っていき方を教えてもらいました。少しずつずっとやってきたのが、今大会花が咲いたという感じです」

川原「例えば、高校生の試合だと、相手より審判にフォーカスしてしまうことがある。そうなると、自分たちのペースでバスケットができなくなる。そういう時こそ『次へ次へ』と、明るく前向きな声かけをするなど意識してきました。自分がシックスマンとして入り、流れを変える役割なのもあります。自分含めた選手、コーチ陣、今大会通して、どの試合も自分たちのプレーにフォーカスできていました」

-3年生の存在は大きい
川原「予選前、3年生は進路活動で練習できないこともあるなか、1、2年生がチームをつなげてくれた。おかげで3年生も集中して結果を残せたと思います。マネージャーも含めて、試合に絡めていない部員のおかげです。試合を重ねるごとに成長しているよ、と宮迫先生から言ってもらい、選手たちも気持ちをグッと上げていけました」

-全国の舞台に向けて
川原「正直、どこと当たっても格上になる。全国60チームしか出られない大会、わくわくしながら自分たちの力がどこまで通用するか、試せたらいい。東京体育館の雰囲気を楽しんで、バスケットができればと思います」

左から2年生森田、1年生叶、2年生有川

#18 叶慈平「リバウンドは全部取る」

「リバウンドは全部取る勢いで、ディフェンスも頑張りました。バスケットを始めたのは中1の夏休みから。八村塁を目指してやってみないか、と古仁屋中の先生から誘ってもらいました。シュート決めるのが一番楽しい。インサイドはもちろん外からも打てるよう、シュート練習します」

#7 森田遥「国体の経験が成長させてくれた」

「決勝は試合前の練習の雰囲気がすごく良かった。れいめいに勝って、もう川内と池田に勝つしかないと。結果がついてきました。自分が点取れと先生に言われています。緊張してたんですけど、最後は自分で決める、行くしかないと頑張りました」

-途中から東後藤優志郎選手(川内→鹿屋体育大学)に見えてきました…
森田「似てるって言われます(笑)」

-ウインターへの意気込みを
森田「全国の舞台は初めてです。ジュニアオールスターなどの経験はないですが、鹿児島県の少年男子・国体メンバーに去年と今年、選んでいたただき、全国の遠征など経験させてもらって全国レベルの強さを学ぶことができました。全国ではチーム一丸となって、まずは一勝を目指したい。鹿児島代表としての責任を持って、試合に臨みたいと思います」

#6 有川隼人「大会前から優勝する気持ちで。一戦必勝」

「相手チームの対策もしてきましたし、みんなで気合い入れて、一つひとつしっかりていねいにやって相手に勝つ、ということを試合前からやっていたので、勝てる自信はありました。自分たちのテーマであるディフェンスをさぼらないで頑張ること、しっかり走って点を取るというのが、決勝まで徹底できた。最後まで気持ちが入ってました。(自分の強みは)ディフェンスもそうなんですけど、ドライブは先生からも信頼してもらって思い切りやってこいと、決めることができた。ドライブする場面では決めることもできたけれども、落とすシーンもあったので、ウインターに向けて改善していきたい」

#15 原口翔詠「自分たちで盛り上がっていけた」

「3年生の(川原)拓実が中心になって、自分がチームにどうやって貢献するか。みんなで言い合う機会を持ちました。そうやってどんどん自分たちで盛り上がっていけたと思っています。(決勝の)ミドルは打つしかないなと思って…打ちました!」

鹿工(ろっこう)魂を胸に闘う

WINTER CUP 2022

令和4年度 第75回全国高等学校バスケットボール選手権大会は2022年12月23日(金)~12月29日(木) の7日間、東京都渋谷区の東京体育館を中心に男女各60チームにより開催されます。試合の様子は「バスケットLIVE」などのライブ配信やテレビ放送で視聴可能。鹿児島工業の応援、よろしくお願いします!

取材・文/泊 亜希子
(2022年11月)



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