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務川慧悟&小林愛実 at 霧島みやまコンセール

2022年5月最終週、6月1週目の日曜日に霧島国際音楽ホール(みやまコンセール)で開催された、務川慧悟さん、小林愛実さんのリサイタルに行ってきました。すでに数々の受賞歴があり、日本を代表する若きピアニストとして活躍中のおふたり。セット券5000円(お得すぎますね……)を購入し、演奏を楽しみに出かけました。

まずは務川さん。新緑が影をなすみやまコンセール。古典からモダンまで、留学先のフランスをテーマに駆け抜けていくプログラム。狂気と安らぎが交差していく。紫の印象ある務川さん、ワインレッドのシャツにグレーのジャケットで折り目正しいたたずまい。初めて2階席を選んでみましたが、上から眺める感じも悪くないですね。舞台に登場するシーン、舞台からはけるシーンを最後まで見ることができます。いろんな場所から聴くのもいいかなと思いました。ピアノの場合、手もとを見たい人が多いのか、客席前列左側から売れていくようです。ある調律師さんの話では、ピアノの音は右側の方が良く響くそうです。グランドピアノの羽が開いているところから音は放たれるから。 私は前か後ろなら前、右左はどちらでもいいかなと。かなり前列ですとホールによっては下から見上げる感じになりますが、前列の良いところは演奏家の息遣いまで届くことです。これは好みが分かれるかもしれませんが……。演奏に合わせて「歌ってる」のが聴こえる時もあります。

演奏後、拍手に応えてマイクを手に出てきた務川さん。プログラムをさっと説明して、みやまコンセールで弾くのは9年ぶりだと、日本音楽コンクールで反田くんと1位を取り、各地でコンサートしていたが、当時はこんなに響きの良いホールだと気づかないほどに緊張していましたね、と感慨深そうに話してくれました。二十歳の誕生日を過ぎて「公に」お酒を飲んだのはこの地が初めてでした、とのこと。あれから9年、少しは大人になれたかなぁ…と。結構たくさん話してくださいましたね、エピソードごとに拍手や笑い声が湧いて。アンコールはラストのラヴェルからソナチネと、ドビュッシーの花火。理知的でエレガント、クールな分析にパッションを内包する務川さんの演奏。もたれない(笑)。洒落たレストランでシャンパーニュと美しい前菜盛り合わせを頂くような。別のプログラムでまた聴きたいなーと思いながら帰途へ着きました。この時で愛実さん回は完売御礼。期待が膨らみます。

みやまコンセール内の喫茶 Mono.さん。ここがあることも、みやまに行く楽しみのひとつ。

2週続けての、みやま詣で。梅雨入り前でしたが、小さめの台風のような雨風。さすが愛実さん、嵐を呼ぶ女だな......と思いながら、満杯の駐車場に車を停めて、傘を差しながら会場へ。みやまコンセールは霧島の森の中にある。私は車で80~90分くらいかけて行っている。県内の皆さんでも平均60分くらいはかけて、来られる方ばかりではないでしょうか。もちろん、遠方から飛行機でいらっしゃるお客さんも。地下鉄一本で行ける都会とは違う!(笑)けれども、雨が降ろうが槍が降ろうが、どれだけ不便なところにあろうが、人は見たいものに集まる。

小林愛実さんのリサイタル。シューマンのアラベスク#18の美しいこと、シューベルトソナタ19番、さいご涙出ました。前半だけですでに大満足。後半はショパンづくし。アンコール5曲(!)も弾いてくれた。24の前奏曲は圧巻、アンコールはもはやアレンジの域に入りそうなほど弾きこなしてる…私は3曲聴いたとこで後ろ髪引かれつつ会場を後にした。
やっぱり生で聴くと分かることがある。愛実さんは弾きたいものがはっきりあって、そこに向かって音を削っていく彫刻家だ。集中と放心。精緻なテクニックを操り、野生の猫のように鳴いたりうめいたりしながら、曲に深く入っていく。観衆はその渦に飲み込まれるしかない。

「歌ってたね、愛実ちゃん」近くの席の奥さまが、お連れ様にそうつぶやいたのが聞こえた。そうなの、歌ってるのが聴こえるの。私の幻聴ではなかった(笑)。藤田真央くんも歌ってる時がある。歌いたくもなるよね、こんなに美しい旋律たち。愛実さん、アンコール5曲はサービスしすぎだよーショパン弾き納めか?ってくらい弾いてました。(まだまだ演奏会は続きますよ。) 完売御礼で会場ほぼ満席、駐車場もかつてなく満杯。ピアノを習っているであろう、小さい女の子、男の子の姿もたくさん見かけました。務川くんのにも来たら良かったのに……と、ちょっと思いました。

7月8月には毎年恒例の霧島国際音楽祭が開催されます。この2年、コロナ禍に延期を余儀なくされたり、規模を縮小して開催してきた音楽祭ですが、いよいよ本格復活といったところでしょう。みやまコンセール、小さなホールですが、緑に包まれた森のホールといった趣で、intimateな雰囲気で演奏を楽しむことができます。近くには霧島温泉郷、妙見温泉郷があり、温泉を楽しむことも可能ですが、コンサートのあとはすっかり癒されて、温泉不要なほど。「音楽の楽に草かんむりを付けると薬になるでしょう」とは、ある調律師さんの言葉。森林浴に音薬効果ばっちりの、みやまコンセールです。


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