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「Clubhouseで起きた出来事をラーメン屋の物語にしてみた」の巻

相方のつよぽんとラーメン屋を開いて2年になる。
先日、ふらっとやってきた女性客が「前から思ってたんだけど、もっといいお塩を使った方がいいわよ」と言い出した。
初めて見かける顔だと思ったが、何度か食べに来たことがあるという。
「失礼ですが、どこかでラーメン店を開いている方ですか?」と聞いてみたら、「いきなりけんか腰ね」と言う。
「塩は大事よ。もっといいお塩を使わなきゃダメ」
得意げなアドバイスを受けぼくはしらける。
誰なんだ、このおばちゃん?

居合わせた常連のお客さんたちは不安そうな顔をしている。
開店以来、毎週のように来てくれる方もいる。
気に入ってくれているみなさんに不安を与えたくないので、「それはぼくが判断することですよね」と告げた。
「変な塩を使ってると、お客の身体にも悪いのよ」おばちゃんは譲らない。「沖縄のぬちまーす塩とか使えばいいと思うわ」

ラーメン屋をやっているのだ。
どんな塩を使うかなんて、当然考えている。
ぬちまーすがいい塩なのも知っている。
ただ、価格が高い。とてもお高いので、そんな塩を使ったら、経営は成り立たない。
値上げすれば、常連のお客さんが離れてしまうリスクがある。

「塩を変えるつもりはないありません。うちの味を気に入ってくれる方が来てくれればいいので」
「お客の健康第一でしょ!」
「そんなことは知っています。ただ、ぼくは同時に、経営のことを考えなきゃいけないんです。コストが上がったら値上げせざるを得ません」
 
それまで黙していた常連客の一人が口を開いてくれた。「今までどおりでいいって。大将が変な素材を使わないってのは信じてるから」

憤慨しつつ、おばちゃんが席を立った後、相方と常連さんが慰めてくれた。
「変な人ってどこにでもいるもんだな」
「今までどおりの味でいいよ。ぼくらはそれが好きで来てるんだから。値上げしたり、店を潰したりしないでくれよ」
「塩にこだわる店がいいなら、自分で開けばいいのになぁ」
ぼくが漏らした愚痴に相方もうなずく。
「あの人、駅前の牛丼屋でも見たことあるよ。お節介なアドバイスして嫌がられてたのに、後で『私が指導してあげたから、あの店は美味しくなった』って自慢してたぜ」
「言うこと聞かなかったから、たぶん今頃はあちこちで、この店の悪口を言ってるんじゃないか」

うちの店は近年、急速に寂れつつある商店街の一角にある。
近所の店がバタバタをつぶれる中、続けてこられたのは相方と彼らの支えがあったからだ。
彼らの声がやるべきことを教えてくれる。

もちろん、外の声を聞かない、ということではない。
『一蘭』の社長がもしやってきてくれるなら、そのアドバイスは謹んで拝聴する。
ラーメンの材料も情報も同じだ。仕入れ先を慎重に選ばないと、簡単に台無しになる。

おっと、そろそろ暖簾をしまう時間だ。


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