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しあわせになるために誰もが生きているんだよ

 さだまさしの『いのちの理由』っていう歌があるじゃないですか。先日テレビをつけたらたまたま日テレ系バラエティ番組の『行列のできる法律相談所』が始まるところで、偶然さださんがゲストの回で特集だったんですよね。序盤から番組の最後にはスタジオで一曲歌ってもらいますという振りがあったので、何を歌うのかなあと思っていたんですけど、それが『いのちの理由』でした。今回はこの歌と私を繋いでくれた結婚式のお話、そして、この歌を聴きながらぐるぐる考える社会のお話。   

□マッスルからのことば

 2017年、私は南三陸町で結婚式を挙げました。震災後通い始めてからお世話になったたくさんの方々と、生まれ育った東京での家族、友人、先生方、そしてお仕事で特にご縁の深まった方々も遠方から来てくださいました。みんな大好きで大事な人たちばかりだったけれど、私が結婚する時にスピーチをして欲しい人は、10代の頃から心に決めていました。それが、私の小学5・6年生で担任だった先生、通称「マッスル」です。(前の学年の人たちがそう呼んでいたからですが、なんで「マッスル」になったのかはいまだによく分かりません。)

 マッスルは、一人一人の生徒と真剣に向き合う先生でした。時に本気で叱り、時に感動して涙を流し、時に校庭で全力で遊び、時に何も言わず話を聞いてくれました。マッスルは、時に金八先生のような熱血教師でした。時に友達のように話ができる存在でした。時に父親のような深い愛情を感じる人でした。でも、いつだって誰かに偏ることのない、厳しくも優しい、みんなの大好きな「先生」でした。私が教育を目指して進学したのも、マッスルのような誰かの心に残る、誰かを支えられる仕事に就きたいと思ったからです。

 私にとっては大袈裟ではなく命の恩人でした。見た目も大きくいろいろなことに敏感だった私にマッスルが気付いてくれていなかったら、今頃生き方が分からなかったかもしれませんから。マッスルとは卒業後もやりとりが続きました。東日本大震災の時私は大学生でしたが、ボランティアに行き始めてしばらくした頃、マッスルもボランティアに来てくれました。そんな一番の恩師のマッスルだからこそ、一緒にボランティアをした南三陸町での結婚を見届けて欲しいと願い、スピーチをお願いしました。そして当日、私との出会いや思い出を語った後、マッスルがある詩を贈ってくれました。それが『いのちの理由』の歌詞でした。

□私が生まれてきた理由は

私が生まれてきた訳は
父と母とに出会うため
私が生まれてきた訳は
きょうだいたちに出会うため

 私はこの歌を知りませんでした。でも、マッスルだから、11歳の年に担任になって27歳で結婚するまでずっと知ってるマッスルだから、この詩を選んだ意味が最初のフレーズから直感的に伝わりました。(だからこそ、すぐに涙でいっぱいになったことも忘れません。)私には2人の父がいて、たった一人の母がいて、血を分かつ妹たちがいます。今では愛すべき大事な家族でも、私は自分の不器用さのあまりうまく付き合えずもがいていた時期がありました。冒頭がこの言葉で始まる詩を聴いて、ドレスを身にまとっていることも忘れ、フラッシュバックのようにそれまでを思い出しました。

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歌詞を書いてみるとまた深く入り込む

私が生まれてきた訳は
何処かの誰かを傷つけて
私が生まれてきた訳は
何処かの誰かに傷ついて
私が生まれてきた訳は
何処かの誰かに救われて
私が生まれてきた訳は
何処かの誰かを救うため

 2番目もこのような歌詞があります。私はこの詩を通して「君はこれまで傷ついてもきただろうけど、でも家族や周りの人を傷つけてきたかもしれない。君は南三陸町と出会って、旦那さんと出会って救われたこともあるだろう。これからは誰かを救える人でいてください」とメッセージをいただいたような気がしました。そして、誰かを救える人でいたいと思いました。

□私たちの生きる世界にそれは必要なのか

 私もネットニュースから知ったことですが『テラスハウス』に出演されていた女子プロレスラーの木村花さんがお亡くなりになってしまったことで、ネット社会でのSNSモラルや番組制作側の意識の問題がいろいろと述べられているのを見ました。私はここで偉そうに他人のモラルがどうこう言いたいのでもなく、番組制作の世界も知らないで制作側がどうだと言うつもりもありません。ただ、私はプロレスに疎く彼女のことを知らなかったのですが、22歳という妹とほぼ同じ歳くらいの彼女が亡くなったという事実を社会現象のようにではなく、尊い一つの命を失った事実と受け止め、ご冥福をお祈りしたいと思いました。

 震災を機に被災地に通うようになり、その「被災地」にはそれぞれ名前があること、その「犠牲者」にはそれぞれ名前があること、そしてその一人一人に人生が、歴史が、背景があることを肌で感じました。だから、テレビ業界の話とか、SNS社会の話とかよりも、まずは悲しいことが起きたという事実をしっかり理解したいなと。そして、それは決して画面の向こう側のことではなく、自分も世の中でその一員になっているのではないかということを胸に留めておきたいなとも思いました。

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今は番組に溢れている

 私もテレビを観ます。ジャンルも色々観ますが好き嫌いは当然あるものだと思います。それから、番組づくりには狙いがあり、演出があり、スポンサーがいたりキャスティングの経緯などの背景があるということもある程度の想像できます。番組に限らず、あらゆる業界に一般的には見えていない世界があるのだと想像します。それがそれで良いのかどうかは分かりません。ただ、この想像力で少しは世の中のできごとによる感情の矛先を変えることができるのかなとは思ったりもします。しかし同時に、そう考える自分も想像が足りない世界がたくさんあって、結局は綺麗事を言っているだけなのではないかと思ったりもします。

 自分の中で悶々と考えてたどり着いたのは、特定の誰かや企画などへの批判ではなく、あくまでも素朴な疑問として、他人のリアル(あるいはリアルになるように仕掛けられた)の様子を「覗き込む」ことで、無責任に解釈して楽しむことが「娯楽」として「必要」な世の中なのだろうかということでした。作ったことへの是非でも、楽しんでいた人への是非でもありません。誹謗中傷はもちろん悪ですが、その人たちにも背景があると想像したら、対立構造では解決を生みません。それに、その娯楽もハッピーな解釈ばかりなら良いかもしれません。しかし、誰かへの不幸に繋がる娯楽が、皮肉にも求められている世の中になってしまっているのでしょうか。

□しあわせになるために生まれてきた

 マッスルが贈ってくれた『いのちの理由』の詩では、こんな風に語り掛けてくれます。

しあわせになるために 誰もが生まれてきたんだよ
悲しみの花の後からは 喜びの実が実るように

しあわせになるために 誰もが生きているんだよ
悲しみの海の向こうから 喜びが満ちて来るように

 それは、花が咲いて葉が散るように、夜が来れば朝が来るように、生まれてきたらしあわせになるために生きる、それが自然なことなんだというメッセージになっています。そして、そのしあわせはただハッピーなことばかりがあるというわけではありません。悲しみのあとに喜びがある、悲しみがあるからこそしあわせを噛みしめるということです。

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東北三陸沿岸、山から海を見渡す

 災害の悲しみは、もちろん誰にとってもなければ良かったことで、必要ではないと思いたいことですが、自然と共存していく中で、無くせないものでもありますよね。例えばテレビやネットも、その普及によって社会問題も広がっているかもしれませんが、日常的にもビジネス的にも世界との繋がりを見ても、もう安易に無くせない世の中ですよね。でも、必要以上の娯楽で人が人でなくなるならば、その娯楽は無くなった方が良い、しあわせになるために生きることを閉ざされるようなものは、必要ないと思うのです。これは特定の番組のことを言いたいのではなく、そういうタイプの娯楽にもニーズがあり成立してしまう、そしてその広がりが加速する世の中への懸念と不安です。

 私は10代20代と、両親や妹たちに自分のストレスや不安をぶつけてきました。外ではいい子にしようとする分余計家では反動で八つ当たりをしてきました。今思えば義理の父も、母も、歳の離れた妹たちも、傷付けてきたと思います。もしかしたらそのまま、外に出せないストレスをSNSで誰かにぶつける人間になっていたかもしれません。でも、時間が経って、その傷付いた意味とそれを乗り越えた自分にできることをじっくり考えられるようになってきました。痛みも少しは分かるようになったと思います。だからこそ今は、しあわせになるために生きようと思って日々を過ごしています。

□愛しいあなたに出会うため、愛しいあなたを護るため

 しあわせいっぱいの結婚式、『いのちの理由』が号泣するほど胸に響いたのは、それまで傷付き傷付けた過去があったことをマッスルが知っていたから、そして、だからこそしあわせになることとしあわせにすることを大事にして欲しいというメッセージを感じたからです。悲しいニュースの後にたまたまさだまさしさんの出演番組でそんなことを思い出し、どうか誰もが、日頃の悩みや突然訪れる悲しみやコロナも含めた苦境を乗り越えて「しあわせになるために」生きていける世の中になって欲しいなと切に願いました。

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プロポーズ受けた時の花束

私が生まれてきた訳は
愛しいあなたに出会うため
私が生まれてきた訳は
愛しいあなたを護るため

 愛しい人たちを護れる人でありたいと自分に言い聞かせて今を生きます。

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