ライト・ブリンガー 蒼光 第六部 終章

終章 「目指す未来」

 光と修が部屋から姿を消して、不安に駆られた有希は眠っていたセルファを起こした。セルファは、有希と共に光と修の下へと向かうことを決めた。
 その時、セルファはアルトリアに食料の買出しを頼んだらしい。有希と違って、アルトリアは修に対して盲目的だ。光と修が戦う場面を見て、絶対的に修寄りであるアルトリアが場を混乱させないためにと気を利かせたのだろう。
「そんな……!」
 セルファは口元を手で覆い、震える声で呟いた。
 テレビでは、アルトリアが街中で殺されたことが報道されていた。ナイフで胸を一突きにされて、死んだと報道されている。
 光は腰を下ろしていたベッドから弾かれるように立ち上がり、ドアへと走った。乱暴にドアを開けて、隣の部屋へと向かう。鍵のかかっていないドアを開けて、光は修の部屋へと駆け込んだ。
「修……!」
 アルトリアが殺された、そう言おうとした瞬間、光は気付いた。テレビがついている。
 その画面を、修が凝視している。有希が絶句している。
 軍事複合企業スコールの会長、アルトリア・スコルジーが通り魔に胸を一突きにされて死亡したという内容の言葉が流れてくる。アルトリアが能力者であることが犯行の動機ではないかというキャスターの言葉が、テレビから聞こえた。
「アルトリアを殺したのは、VANの能力者だ」
 聖一の声が部屋の中に響いた。
「駆けつけるのが、一歩、遅かった……」
 聖一は、アルトリアがナイフで刺される瞬間を見ていたらしい。ただ、それを阻止できるほど近くにはいなかったのだ。駆けつけようとした時には、アルトリアは刺されていた。
 VANの構成員の顔を多く知っている聖一には、アルトリアを殺した相手がVANの能力者だということが判ったのだろう。
「……私が、私が、おつかいなんて頼まなければ……!」
 ドアの傍で、光の後を追ってきたセルファが泣き崩れる。
「いや、セルファのせいじゃない」
 修が呟いた。
「でも……」
「そういうことなんだな……」
 ゆっくりと、修が立ち上がる。
 その横顔には、はっきりと怒りと敵意が見て取れた。
「この戦いを終わらせない限り、安心して買い物もできないってのか……!」
 怒りに燃える修の目が、テレビに叩き付けられている。
 VANが光たちを狙っているのは知っていた。実質的に戦闘力の低いアルトリアを一人で外に出したのはミスだと言えなくもない。だが、いくら仲間だからとは言え、常に全員で行動できるはずもない。
 一人で街を歩くことのできない世界になってしまったということだ。安心して暮らすことのできない世界に。もしかしたら、死んでいたのは有希やセルファだったかもしれないのだ。
「光……!」
 セルファの肩を抱きながら、光は修に視線を向けた。
「VANの本部に奇襲をかける……!」
 交わした視線に、光は静かに頷いた。
「攻めるのか?」
 聖一が問う。
 VANとの決戦に臨むのであれば、反抗勢力全てを味方につけるべきだ。聖一は、そのために各地の反抗勢力を繋ぐ架け橋になる。
「光、VANを潰そう、次の攻撃は、本部に対して仕掛けるぞ……!」
「……その言葉、俺はずっと待ってたんだ」
 決意に満ちた修の目を見返して、光は言った。
 立ち上がり、光は修と拳を突き合わせる。互いの意志を確認し合い、決意を交わす。
「なら、準備を始めようか」
 聖一が言った。
 全世界の反抗勢力を繋ぎ合わせ、決戦に向けて勢力を掻き集める必要がある。それには時間がかかる。明日、明後日でできることではない。
「じゃあ、俺は訓練に集中するよ」
 光の言葉に、修は無言で頷いた。
 聖一が勢力を集めている間に、光は可能な限りの特訓を受けるつもりだった。全ての準備が整うまでに、刃を超える強さを身につけなければならない。そのために、特訓に集中するために、ROVの下へと渡る。
 特訓と同時に、刃に協力を取り付ける必要もある。
 どれだけの勢力が手を貸してくれるのかまだ判らない状態では、作戦も立てられない。見通しが立つまでは、修も光同様、力を鍛えるはずだ。肉体系の強化度合いが低い修は、光とはまた違った方法での鍛錬になるだろうが。
「セルファ……手伝って、くれるよな?」
 光は座り込んだままのセルファに声をかける。
 アルトリアの死を引き摺るかもしれない。それでも、引き摺ったとしても、前へ進む。今まで以上に、力強く、速度を上げて。
 涙を拭い、立ち上がったセルファは力強く頷いた。
「……俺たちが望む、未来のために!」
 光の言葉に、皆が頷く。その意志を、確かめ合うように。
 そして、この瞬間、最後の戦いへと進むための一歩を、光たちは確かに踏み出していた。


 ――続く!


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