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【小説】美しい孔雀 4

 

しばらくすると、辺りの様子が一変した。



昨日馬車で通ったような、あの、煉瓦屋根でパステルカラーの壁の家々は消え、代わりに、板切れや布を継ぎ合わせたような粗末な家々が立ち並んでいた。


辺りには、鼻が曲がりそうなほどきつい悪臭が立ち込め、でこぼこでぬかるんだ狭い道の上を、時折、ネズミやゴキブリが走っていった。



それでも、軒前には洗濯物が並び、道には子どもたちが走り回って遊んでいた。



そして、その子どもたちの間を縫うように、大きなパンパンの袋を担いで歩く、一人の少年がいた。


「その袋、持つの手伝おうか?」


「ううん、大丈夫。これくらいへっちゃらだよ!」


「すごい! 君、力持ちだね! こんなにいっぱい、何が入っているの?」


「空き缶と、プラスチック。あっちのゴミ捨て場で漁ってくるの。これを売って、お米を買うんだ」


「お父さんやお母さんも、そうしてるの?」


「ううん。母さんは病気で寝てる。父さんは、死んじゃった」



「…!!」

孔雀は言葉を失った。


臭くて危険なゴミ捨て場から、ゴミを漁ってくることで生計を立てている人がいるなんて…。


しかもそれを、こんなに幼い少年が、たった一人でやっているなんて…。



「もし、自分の好きなことが何でもできたら、何をしたい?」


「…学校へ行きたい。学校へ行って、お勉強して、お医者さんになって、母さんの病気を治してあげたい」



孔雀はもう、涙を抑えることができなかった。

少年の純粋な、そして切実な願いを、何としてでも叶えてあげたいと思った。


「この羽を好きなだけ取って、それを売れば、学校に行けるかもしれないよ!」


「ホントに?」


「ホントだよ」


「ありがとう!!!!」


そして、少年は羽を二枚だけ取って、こう言った。


「お隣のトニーも、向かいのソニアに、カミーラも、バーニー、レニー、アンジェラ、トマスさんに、レジェスさんも、この羽を見たら、みんな喜ぶよ。

だから、みんなにこの羽を渡して」


「いいの?」


「うん。いいよ」


「分かった。きっと、そうするよ。…ところで、お名前は?」


「アレン」


「アレン君、きっと約束は守るよ。またね」


そう言って孔雀はアレンの元を去った。

 


これが、孔雀の長い闘いの始まりであった。


#小説

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