【小説】美しい孔雀 6
しかし、楽しい時はそう長くは続かなかった。
あれほどたくさんあった飾り羽が、とうとう無くなってしまったのである。
最後の飾り羽を渡し、家から出てきた孔雀に、孔雀と遊んだことのある少女が通りかかった。
「カミーラ! 元気にしてた?」
「うん! それよりあのね、見て見て!」
そう言ってカミーラはリュックサックから、一冊の本を取り出した。
それは、英語の教科書だった。
「学校、行けるようになったんだ!」
「うん! 羽を売ったお金を、お母さんに見せたら、午後だけなら、学校に行っていいって!」
「おめでとう!」
学校に行くのは、カミーラの夢だった。
もし学校に行けるようになったら、将来は先生になりたいと、カミーラは以前、孔雀に言ったことがあった。
「あっ、もうすぐ夕ご飯だ。帰んなきゃ」
「そうか。じゃぁね、カミーラ」
「バイバーイ」
カミーラはデコボコの道を、駆け足で走って行った。
元気よく走っていくカミーラとすれ違うように、一人の袋を担いだ少女が足早に歩いて行った。
カミーラより、幾つか年上に見えるその少女は、こう呟いた。
「私も学校に行きたい…」
孔雀は思った。
「今まで、たくさんの人を救ったが、まだ救われていない人がいるのだ。
私にはまだ、体の羽がある。
だから、まだまだたくさんの人を助けることができる──最後の羽が無くなるまで」
孔雀は、体の羽を全て抜き、全ての人々に与える決心をした。
しかし、ここからが本当の闘いの始まりだった。
たやすく抜ける飾り羽と違って、体の羽は、そう簡単には抜けようとしなかった。
それを無理やり引き抜こうとするたびに、孔雀の体には鋭い痛みが走った。
孔雀の日々は、その痛みとの戦いの連続だった。
更に、むき出しになった素肌は、風が吹き、雨が降るたびひりひりと痛んだ。
また、肌がむき出しになったことで、あの恐ろしい、野良犬や蛇が、しょっちゅう襲ってくるようになった。
孔雀は、心優しい人が家に泊めてくれた日にだけ、ようやく眠ることができた。
眠れないことで、体力も弱くなり、子どもたちと遊ぶ元気も無くなった。
子どもたちに遊びに誘われるたびに、孔雀は、ごめんね、ごめんねと言って断るようになった。
それでも孔雀は、羽を配るのを止めなかった。
と言うより、止めることができなかったのだ。
孔雀が、ある一人の少女の家に入ったときのこと。
テレサと言うその少女は、父を紛争で亡くし、母を病気で亡くし、たった一人で働いている。
かつては学校に行っていたが、母親が病気になったことで、三人兄弟の一番上だったテレサは、学校に行けなくなってしまった。
しかし、その弟も妹も、病気で亡くしてしまった。
孔雀がテレサに将来の夢を尋ねると、テレサは、満面の笑みを浮かべ、目を輝かせて、こう答えるのだった。
「大人になるまで生きていたい」
(つづく)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。いただいたサポートは、他の方のnoteのサポートや購入、そして未来の自分を磨くことに充てる予定です。