デルトラ・クエスト

僕が小学生の頃、どこからともなく誰からともなく、気づけば大流行していた作品がある。
エミリー=ロッダ先生の「デルトラ・クエスト」である。
おおよそ同年代の人は、このタイトルを聞いた瞬間に電撃が走り、何故今の今まで忘れていたのだ!というぐらいの懐古感に襲われるのではなかろうか。
……と大袈裟に言ったが、少なくとも僕いた観客ではそれが大袈裟ではないくらいの人気作品だった。
学校の図書室でも市の図書館でも借りれることはまずなく、なんなら借りた人が又貸ししてその人がさらに又貸しし……ということもあった。

大きく3部作になっているのだが、第1部が最も長く、そして最も愛されていた。
舞台はデルトラ王国、その王家の宝たるベルトにはめられた7つの宝石が闇の大王によって世界に散らばってしまい、世界は混沌に包まれた――という感じが第1部のあらすじだ。
主人公・リーフは勇者でも何でもない少年だったが、元衛兵のバルダ、野生的な少女・ジャスミンの3人と冒険に出て、モンスターと戦い宝石を集めていく。
第2部では王国を救った後、囚われた民を救出する物語が描かれている。
第3部は王国を飢餓から救い出すために4人の歌姫を倒すとかなんかの、そういう話だった覚えがある。

こうしてみると王道ファンタジーとして完成していて、面白いという確信がある反面、他の作品との差別化はあまりできないように見える。
しかし、この作品が僕ら少年の心を掴んで離さなかったのは、レアカードの如く煌びやかに輝く豪華な装丁と、その表紙に描かれる厳かなモンスターのイラストだろう。
今でも脳裏にしっかり映せるほど強烈に刷り込まれている。
個人的には6巻でアメジストの番人となるクソデカナメクジみたいなモンスターの造形が一番印象に残っていて、今でも軟体動物系のモンスターを見るたびにコイツが脳裏に這いずり出てくる。
因みに大抵「モンスターハンター」のフルフル、「デュエルマスターズ」のゼリーワームと一緒に現れる。
更には劇中では洞窟内を徘徊していて、音を頼りに襲ってくるという習性があり、そういった「音を頼りに襲ってくる」「音を出さなければ目の前にいても大丈夫」みたいな設定を聞いても脳裏から顔を出してくるので、モンスターでなくても「ドント・ブリーズ」みたいな作品を見ていても思い出してしまう。
嫌なヤツだ。
第3部の最終巻も色使いが美しくて印象深い。
あと巻は忘れたが、「バイオハザード」のリッカーとハンターを足して2で割ったみたいな爬虫類系のモンスターも、その歯や爪の細かい描画に感心した覚えがある。

アニメ化もしているらしいので、いつか少年の日を思い出して見たいと思う日が来るかもしれない。
しかし、あの美麗なイラストはやはり小説ならではなのだ。

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