とらドラ!

青春ラブコメというのは王道中の王道たるジャンルであるし、古今東西を問わず最も多感な時期に興味を持つ最も多感な物語である。
故に作品は星の数ほど存在していて、常に触れる機会がある。
にも関わらず、初めて出会った時からオッサンに片足突っ込んだ現在に至るまで、最も甘酸っぱさ――もしくはホロ苦さ――を覚え、今尚その鮮度が落ちない作品がある。
「とらドラ!」という唯一つの作品だけ。

オタク仲間に「オススメのアニメ教えてよ」なんて言おうものなら早口でズラズラとタイトルをマーライオンされるか、さぁ沼に落としてやる聞いてくれこの作品の良さを……となるか、オトナなオタクら好きな傾向を聞いてからタイトルを挙げるかである。
しかし、高専時代に友人らに聞いて回って必ずと言っていいほど挙がったのが「とらドラ!」であった。
当時はアニメなぞ「名探偵コナン」ぐらいしかやっていない地元のオタクにまで勧められたから、迷わずアニメで履修した。

僕は高校生活を知らない。
高専はどう考えても高専でしかなく、強いて言うなら大学に近かったし、どちらにしろ半ホームレスの僕には学生生活そのものが縁遠いものだった。
故に、中高生時代の恋愛事情というのは「とらドラ!」が僕の全てと言っても過言では無い。
仲良くなりたい女子と同じクラスだが接点は無い、しかし共通の交友関係からお互いにお互いの恋愛キューピッドを演じ、時に舞い上がり、時に怒り、時に傷つく。
僕は心というものは成長するものでは無いと考えている。
しかし、広く、深くなっていくものだと考えている。
そのために沢山の感情を生んでは吐き出し続けるのが青春なのだと思った。

物語の重要人物として亜美ちゃんがいる。
主人公ともヒロインとも違った立ち位置ながら、物語を劇的に動かしていくキャラクターだ。
キャラクターとしては好きではないが、物語に対するその役割は非常に大きく、亜美ちゃんがいなければこの作品はここまで面白くならなかったと思う。
中心人物とはいえ、キャラクターたちの心情を含めて、こんなに大きく動かせるキャラクターというのはなかなか居ない。
スゴくスゴいと思う。

亜美ちゃんは中心人物というのもあって分かりやすくスゴいのだが、地味に生徒会長もかなりオシャレな役割遂行をしたキャラクターだと思っている。
ちょっとガラの悪い生徒会長、というフィクションならではのデザインを持ちつつ、他者へ刺激を与える立場でありながら自身も刺激を受け、大人でも子供でもない年頃の強さ弱さを明確に表したキャラクターだと思う。
そしてその凶暴性が大河と対等に釣り合うところがパズルがハマるように綺麗に作品として収まっていて、本当によくできたキャラクターだと思う。
この二人に恋した失恋大明神はドMを超えて彗眼である。

原作はライトノベルだが、アニメの脚本もまとまっていて、どこにも観ていてダレることがなく、早く次の話を観たいと思わせてくれる。
2クールの期間を感じさせなくて、でも満足感は大きく、そして続きがないのか……と絶望するぐらいの面白さだ。
今となっては絵に古さを感じるが、全然見れるレベルだと思うし、後期OPEDなんかは楽曲の絶妙な切なさが今も聴いててキュンとくる。

昨今のライトノベルはなろう系が勢力を強く持っているが、僕がなろう系ラブコメを好きになれないのは中途半端な設定やゲームファンタジー一辺倒というところだけじゃなく、キャラクターたちの心情変化が無に等しいところだと思っている。
ラブコメは感情の振れ幅と変化の質とがとても重要だと思っている。
絶対コイツとは付き合えねぇとお互いに思っていた二人が説得力を持った流れでくっつく物語なんて重厚で濃密なストーリーは、ラブコメの極致に位置するのではないかとさえ思う。

「付き合うなら〇〇、結婚するなら〇〇」といったクソみたいな下衆いことを言う男がいる。
俺はみのりん一筋だ。

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