奥さん以外の女性に愛の告白をしてしまったかもしれない。

バス停に着いたらおっさんがいた。おっさんの後ろに若い女性が2人。計3人が並んでいた。

そのままわたしが4人目として後ろに並べばいいんだけど、ちょっとためらった。たまにいるでしょ。バス停には来てるけど、なぜかちゃんと並ばないで少し離れたところにいたりする人。それがいたから。

そういう人の大半はタバコ吸っているか誰かと通話しているか放屁しているかのどれかなんだけど、その人はどれも違った。腕に威圧的なタトゥーを入れた若い兄ちゃんが缶ジュース飲んでいた。ゼリーでも入っているのか。缶の底をわりかし必死な形相でトントン叩いていた。だから以後この兄ちゃんをゼリーって呼ぶ事にした。

ゼリーは列には並んでいなかったから、わたしが4人目として並んだ。少ししてからゼリーが5人目としてわたしの後ろに並んだ。

ほどなくしてバスが来たんだけど、わたしはゼリーにバスに乗る順番を譲った。並んではいなかったとはいえ、先にバス停に来ていたのはゼリーだったからだ。わたしの感覚では先を譲るのがごく自然な事だった。

でもゼリーは不思議そうな顔をして全然乗ろうとしない。だからわたしは「先にバス停に来られていたようなので」と一言添えて、どうぞと手で乗車を促した。そしたらゼリー、「何だこいつ」とでも言いたげな顔をして大げさに首を傾げながら乗ってった。

なんだてめえその不遜な態度はゼリーのクセに。元はと言えばゼリーがちゃんと列に並んでなかったからややこしいことになってんじゃないかよ。ゼリーみたいに腕に威圧的なタトゥーを入れている奴は「てめえオレが先にバス停に来てたんだぞコラえー」とか言うだろ?言いそうだろ? 怖えじゃん。だから先を譲ったんだぞホントは。

うるせえ人を見た目で判断するなとか言ってんじゃねえ。他人はどうだか知らないけどわたしは見た目で判断するんだよ。当然だろその派手なタトゥーを見てんだぞこっちは。ゼリーもタトゥーを入れたのならそういうネガティブな見方をされることも含めて覚悟して入れろ。そこまで考えてなかったのなら残念ながらゼリーお前がアホだったということだ。

ゼリーゼリー言ってたら何だか急にスイーツが食べたくなったから週末はスイーツパラダイスには行かないでスーパーというスーパーのロールちゃんを買い占めるぞ。ロールちゃん最高。こんなに安くて美味しいスイーツはない。

ゼリーのせいで怒りより何だか悲しい気持ちで帰路についていると、前から歩いて来たばーちゃんに話しかけられた。

「お兄さんホラ見てごらん。キレイな月」と言ってわたしの後ろを指差したから振り向いて見てみたら全然キレイじゃなかった。全然は言い過ぎだけど、だってばーちゃんがキレイとか言うからスーパームーンみたいなのが浮かんでいると思っていたら普通の三日月だった。クレセントムーン。

でもばーちゃんがわざわざ話しかけてくれたんだからと思って、わたしも「あぁ本当だ。月がキレイですね」と言った。
そしたらばーちゃん上目遣いで口に両手を当て「ウフッ」って笑って去っていった。

あれ? コレもしかしてばーちゃんに強引に愛の告白をさせられたんじゃないの? ばーちゃん明日とかにばーちゃん仲間に「昨日若いコに愛の告白されちゃってねえ」とか自慢するんじゃないだろうな。
ちくしょうババア。わたしは46年間生きてきて奥さんにしか告白した事がないんだぞ。

奥さんゴメン。わたしは君以外の女性に愛の告白をしてしまったかもしれない。

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