おっさんがおっさんである事の何が悪い。

電車に乗っていたら、対面の席にものすごく不快そうな顔をした20代くらいの女性がいた。一体何があったのか。別に彼女の事が気になるわけではないけど、対面にいるのでなんとなく視界には入ってしまう。ドルチェ&ガッバーナの香水のせいかもしれない。

それにしてもなぜこんなにも不快な顔をしているのか。丁寧に切り分けられたドリアンを目の前に置かれたらきっとこんな顔にはなると思う。でも女性の前にドリアンはなかった。だから不快の理由が分からない。

しばらく観察していて分かったけど、どうやら彼女は隣に座る50代風男性を快く思っていないようだった。でも一見して男性におかしな点は見当たらない。もちろんドリアンも持っていない。

おっさんから漂う加齢臭がキツイのか。いやでも彼女はマスクをしている。おっさんが加齢臭を放っていたとしても、彼女の装着する不織布のマスクを貫通するほどにスパイシーではないだろう。

加齢臭が原因でないとするなら音か。おっさんはコンビニのおにぎりを食べていたからクチャラーだったのかもしれない。いやそれもあり得ない。彼女はイヤフォンをしていた。おっさんがクチャラーだったとしても咀嚼音は聞こえないはずだ。

匂いでも音でもないとしたら、もう考えられる可能性は一つしかない。それは隣に座るのが『おっさん』であるという事実。それこそが彼女を不快にさせる原因だ。

まさかそんなと思うだろうか。あながち的外れではないかもしれない。なぜならわたしは先日こんな会話を耳にした。別の日の電車の中で、わたしの近くにいた女子高生らしき2人の会話(意訳)だ。

A「今度バイト先に入った新人がおっさんでさー」

B「マジ?おっさん? 何で?」

A「知らね。あーもう超ヤなんですけど」

B「つかおっさんとかあり得なくね?」

あーおっさん代表としてこのクソガキども張り倒してえ。ナメくさりやがって。あり得ねえって何だよ。おっさんはお前らの価値観であり得たりあり得なかったりする曖昧な存在じゃねえぞ。バイト先だよ。色んな人が色んな事情で働いてんだ。おっさんでもあり得るんだよ。お前らが勉学に勤しむ教室に突如としておっさんが乱入して来たら、その時に初めて「おっさんとかあり得なくね?」って言えよ。おっさんの勤務態度も能力も人間性すら見ようとせず、ただ『おっさん』ってだけで否定するお前らは一体どれほどにあり得る高貴な存在なんだ。

一人で生きてきたみてえなツラしやがって。お前らがいま青春を謳歌しているこの日本は、お前らが見下しているおっさんを含めた先人が必死で作り上げてきたものだぞ。お前らが夢中になっているスマホだってそうだ。その文明の利器を作ってきたのはどの世代の人たちだと思っているんだ。少なくともわたしではないけど。自分が自分らしくあって良いのに、おっさんがおっさんであって何が悪い。

こんな会話を耳にしていたわたしには、いま目の前で彼女が隣のおっさんをおっさんというだけで不快に思っていたとしても「まさかそんな」と言える自信がない。

そんな事を考えている内にホラホラ。うわー彼女めっちゃイライラしてるじゃん。足をドーンッてやったり、これみよがしに体をよじったり、大げさなため息をついてみたり。挙げ句はキッと振り向いておっさんにガンくれてるわ。感情表現がストレート過ぎるぞお姉さん。おっさん見てごらん。ぜんっぜん気付いてないから。おにぎりおいしそう。草。

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